旧徳山村がモデル――『ミヨリの森』を見て

 昨夜フジテレビ系列で放送されたアニメーション『ミヨリの森』(小田ひで次原作・山本二三監督)について書いておこう。

 たまたま新聞のテレビ欄にこのアニメの紹介記事があり、興味を抱いてネットで調べてみたところ、これは一見の価値ありと判断した。私の場合、高校時代はアニメオタクを自認するほど大好きだったけれど、社会人になってアニメは卒業し、以後テレビアニメなんてめったに見ることはなかった。アニメとくればジブリ宮崎駿の映画しか見ないほど。それなのに本作『ミヨリの森』の観賞にいたった理由は、内容が田舎の自然を舞台にしていることのほかにもいくつかある。詳しいことは以下に述べることにする。

 2時間もテレビの前に釘付けになってひとつの作品を見続けるわけだから、娯楽&取材モードでなければもったいない。批評と感想を併せて書いてみよう。

 内容は、家庭の事情を抱えて孤独な11歳の女の子ミヨリが、父親の田舎の祖父母宅へ預けられ、そこで出会った森の精霊や学校の友だちとの交流を経て、やがて心をひらいてゆき、成長してゆく物語。ある意味ありきたりではあるが、ミヨリが「森の守り神」にされた過去から話ははじまっていく。

 見ながら思ったことを、検証しつつ述べてみる。まずは舞台背景など。

 おじいちゃん・おばあちゃんの話ぶりからして舞台は飛騨あたりらしいが、桜が満開の時期に田植えを控えた水田というのは季節感がちょっと変。お決まりの野鳥のさえずり、コマドリの声はまあ許せるとして、岐阜にシマアオジはいないと思うです。

 時代が、ミヨリ11歳の現在にもどり、合掌造りの家々が立ち並ぶ光景は見覚えがある。記念切手でみた世界遺産白川郷かー。やはり舞台は岐阜だったんですね。

 映像美はさすがと思わせる出来栄えだ。監督の山本二三氏はあの『火垂るの墓』で美術監督を手がけた手腕を、本作でも発揮してくれたようだ。山々の遠景から樹木の近景、せせらぎ、水の透明感など、監督の本分を存分に味わえるシーンがいくつもみられた。これは想像だけれど、スタッフを実際に原生林の中へ案内し、本物の自然に触れさせ、ああいった映像を完成させたのだと思う。『もののけ姫』スタッフを宮崎監督が屋久島へ連れて行ったのと同じように。

 ただ、あくまで見た目の美しさだけにこだわるあまり、本物の自然がどういうものであるかを、視聴者に完全には伝え切れない面も指摘しておこう。これは人工の映像の限界でもあるのだが、まあひとことで言うなら、自然は「美しい」だけじゃなく、「汚い」「怖い」「キモイ」も兼ね備えているのだということ。都会育ちの女の子が原生林の中に入り込んだら、特に夏であればアブやらハチやらヒルやらにあっという間にたかられて、泣きながら逃げ出すことが確実なのだから。

 ミヨリが田舎に来たのが梅雨のころとあった。桜が満開なのを見て「いまは7月なのに」というセリフもあった。なのになぜ夜のシーンで虫が鳴いているのやら。飛騨では7月にコオロギが鳴くのだろうか。沢すじならホタルくらい見せてあげなきゃ。ほかに気の付いた野鳥などの声の演出。ヒヨドリシジュウカラ・トビ・アオジアカハラ。夜にはアオバズク。ナツゼミにシュゲールアオガエルとカジカガエル。いずれも時期的・地理的に矛盾はないと思う。

 7月なのにおじいちゃんが猟銃を持って森を歩き回るのはどういうことか。あとに登場するダム調査員(ハンター)もだったし。おばあちゃんはオオバコをすり鉢ですっていたが、オオバコは確かに身近な薬草の代表格だけれど、あれは干して煎じて飲むんじゃなかったかな…。

 村がダムに沈むと聞いて驚くミヨリが、精霊たちとともにダム中止に動くという展開は原作に沿っているのだろうからとやかく言うまい。「イヌワシを探そう! ダムなんてぜったい造らせない」というセリフもいろいろ思うことがあるけれど、これも触れないでおく。

 キャストの声役。これは突っ込みたい点が満載だ。公式サイトを見たら、ミヨリ役の蒼井優とかお笑いタレントはまあしょうがないとして、吉崎典子アナウンサー、伊藤利尋アナウンサー、佐々木恭子アナウンサー、高島彩アナウンサーと、局アナのてんこ盛り。ファンをなめてるとしか思えん。山本二三監督がこんな人材を積極的に起用するわけがない。所詮アニメは局の持ち物か。私がアニオタだった20年ほど前は、スペシャルアニメといえどこんなふざけた配役はありえなかった。熟練したプロ声優がほぼ100%であった。いまどきはアニメとくれば、出来栄えよりも話題性を優先して、ド素人を使うのが普通なのでしょうか? いまの時代を追い続ける現役アニメファンにどう思うか、一度聞いてみたいところである。

 そんな中で、おばあちゃん役の市原悦子はさすがによかった。先にダム反対の姿勢について詳しくは触れないと書いたが、市原悦子のコメントを公式サイトから貼らせていただく。

 自然破壊が叫ばれている昨今、この『ミヨリの森』が、自然を愛し、そして守ろうとする物語であること、そして今のままでは人間をも破壊してしまうだろうということを訴える物語であることに強い感銘を受け、今回声優のお話を受けさせて頂くことに致しました。

 音楽(羽毛田丈史)。ジブリの色がそこかしこ。よかったですよ。脚本(奥寺佐渡子)。ちょっと甘い。演出・効果(?)落第。ダムに沈む村のシーンをミヨリが見せられる手順とか、もっと工夫を凝らせなかったのか。野鳥の効果音などとともに、山本二三監督の未熟さがうかがえることを指摘しておきましょう。

 ほかにも疑問点は多いのだが、これくらいにしておく。

 総評。いまのご時世、公共事業を問うという、社会問題を正面から扱った姿勢は高く評価したい。すばらしいとまではいかぬにしても、上出来だ、90点くらいはあげたいです。こういう「問題作」を製作できるのも頼もしい。実写ではたぶん不可能だろうしね。

 最後にひとつ。モデルを岐阜と先に書いたけれど、ミヨリが守ろうとした森を沈めようとしたダムもまた、実在するモデルがあるんですよね。それはなにか。

 ひとつの村を地図から消滅させた徳山ダム

http://www.fujitv.co.jp/miyori/index2.html