えふりこぎ

増田町狙半内最深部の林道工事現場


 1999年、横手市増田町狙半内地区の最深部。

 林道工事が行われていた。増田町の自然の核心部で、水源でもある場所で。

 同町の最高峰・大川目山は、九合目までざっくりと抉り取られていた。

 実はすでに作業用の林道があるのだけれど、それとは別に、あらたに造られたのだった。

 つまり“必要ない林道”なのであった。

 町民は、だれも、この工事に異を唱えなかった。すこし離れた尾根を越えたI町側にはクマタカの飛翔が確認されていたのだが。

 自然を壊され、水源を汚され、林道わきにはコンクリートや残土が投棄されていたから(森林法と廃棄物処理法違反)、町民はこの工事によって明白な被害を受けている。

 しかしだれも被害届などは、出さなかった。

 工事はほどなく終了し、林道は完成した。

 とくに使いようがない林道は、税金を食い、自然を汚し、水を汚し、景観を汚しつづけている。それでもだれも被害は訴えなかった。いまも訴えていない。

 * * *

 1月に秋田市で行われた成人式で、騒動を起こした若者について、市当局は当初は被害届を出さない方針でしたが、これを一転させ、警察へ被害届を提出しました。

 方針を変えた最大のよりどころは、市民らからの20通以上もの電話・メールだそうです。

 届け出を受けた警察は、若者5名を逮捕しました。

 若者たちは、いったいなにをしたのかというと、成人式の最中に立ち歩き舞台に上がって騒いだというもの。

 物を破壊したとか、人を傷つけたとか、会場から逃走を図ったということはしていません。

 騒いだ時というのも、国歌斉唱時とか市長・来賓祝辞の最中に暴れたというものでもなく、市長の式辞が終わった直後だったそうです。

 これといって悪質さはない――市当局はそう判断したから、若者らにお灸をすえたのみで、放免する方針だったのです。

 しかし夕方、騒動の模様がテレビで放映されるや、市役所に電話・メールが殺到しました。

 殺到といっても20通そこそこですが。

 現場にいて、成人式を運営していた市の関係者よりも、テレビでニュースを見ていただけの人たちが、なぜかこの場合、真理となったのです。

 現場を知らない人が、現場に口を出すと、こういう現象が起こるんですね。

 被害届をだされた若者たちは、市長の「寛大な措置を」とのアピールもむなしく、逮捕にいたり、拘留されました。いまも4名が拘留されています。

 自分に甘く、他人に厳しく、そして他人の目を気にする「えふりこぎ」と呼ばれる秋田県人、これにあり、です。