岩盤浴は冬季閉鎖で

 先に雪崩事故で3名の死者を出した秋田県仙北市玉川温泉岩盤浴場。亡くなられた方々を悼みつつも、地元仙北市呆れた見識を示すニュースが報じられたので貼っておく。

雪崩防護柵設置求める 内閣府政務官仙北市
 仙北市田沢湖玉川温泉雪崩事故について、佐竹敬久知事は6日の定例会見で防護柵設置に否定的な考えを示していたが、門脇光浩市長は7日、内閣府郡和子政務官らが視察に訪れた際、「観光資源の高度利用のため一刻も早く防護柵を設置し、安全を確保できる状況になってほしい」との考えを示した。
 門脇市長は「国立公園は単に景観や自然環境を守るためだけにあるのではない。人が活用できる状況をつくることで公園の意味が生まれる。安全性を度外視して利用できないが、岩盤浴に訪れる湯治客はたくさんいる」と述べた。国には防護柵設置を求めた。
 堀井啓一副知事は「県としても完全に防護柵に反対というわけではない。各機関で話し合い、確実に安全を確保できる対策を考えなければならない」と話した。
http://www.sakigake.jp/p/akita/news.jsp?kc=20120208f

 門脇市長が言ったという。「国立公園は単に景観や自然環境を守るためだけにあるのではない。人が活用できる状況をつくることで公園の意味が生まれる」と。

 どこかで聞いたセリフだなと思った。一種なつかしいような既視感(デジャヴ)というか。記憶の糸をたどると、あの白神山地が林道建設で揺れたころ、旧八森町の有力者と思われる人物が地元紙で答えた言葉が浮かんできた。

 「……自然を放置することは、自然を守ることではない。自然の恵みを巧みにいかし、自然と生活の調和をはかるのは、そこにとどまり、そこに住む者でしかあり得ない」

 この有力者氏のセリフ、仙北市長のコトバと、趣旨がそっくりだと思いませんか?

 八森町はその後、いまも悪名とどろく青秋林道建設促進にばく進したが、地元の森を舐めつくすという狼藉ぶりが祟って、噴飯モノの自爆を遂げたことは以前に書いたとおり→http://d.hatena.ne.jp/binzui/20080409

 ただしそれは過去のこと。八森町八峰町になって町民の意識も変わり、かつて自分たちが破壊の限りをし尽くした地元の白神をよみがえらせるため、尽力していると聞いている。

 そこへきて仙北市長の見識はどうだろう。30年前の八森町と同じではないか。

 あそこは国有林である。つまり全国民のモノだ。一自治体が思いのままにできる場所ではない。ましてや国立公園。その辺の雑木林とはちがう。

 ぶっちゃけ、仙北市長サンは、あの緩斜面をこんなザマにするつもりですか?(↓某ブログより拝借) 火山性で地質がもろく、あちこちから硫化水素ガスが噴き出し、樹木さえ生えず、地滑りの危険性もあるあの斜面をですよ?

 玉川温泉岩盤浴は、難病に苦しむ人の最後の頼みの綱だ。医師に見放され、薬に頼ることさえできず、「藁にもすがる」といった次元を超えて、命をつなぐ唯一の拠り所だ。それは理解している。わたしも昨年の春に出かけ、そうした人たちに接して、生命の危機に瀕しながら一縷の望みを賭けて岩盤浴に通う方々の思いを垣間見た。

 しかし仙北市長の目的は、別の報道によればこう。

 「冬場の観光は市の重要な産業だが、今回の事故で風評被害を心配している。それをぬぐい去れるだけの安全対策が必要だ」
http://mytown.asahi.com/akita/news.php?k_id=05000001202080004

 だそうだ。早い話、雪崩防護柵をつくれば客足が戻ってきて、地元が潤うからということ。多額の費用がかかる防護柵の工事も地元業者が受注できるという思惑もあるんじゃないかと邪推さえしてしまう。

 つまり仙北市長は、難病治療に全国からつどう湯治客の切実な思いを、カネモウケに利用しているだけなのだ。無意味なサプリメント屋や、怪しげな○○石で利益を挙げている悪質業者と大差ない。

 国(現政権)や県は、国立公園をカネモウケのネタにしか見ない仙北市長の要求など蹴ってほしい。むしろ逆に諭していただきたい。雪崩現場に近い玉川温泉は、冬場の客が減少することは織り込みずみだろうが、ここは景観保護・自然保護の立場で、かつてそうであったように冬季の営業は縮小する方向で対策をとっていただきたい。12月から3月までは岩盤浴場閉鎖と。

 玉川ファンとしては断腸の思いであるが、それが一番よい選択だと思う。