クニマス里帰りですか

 その昔、わが郷里が国策という横暴に屈した経緯はさておき、秋田・仙北市は、国(現政権)にクニマス“里帰り”のための、なんらかの補助を求める権利はあろう。国策に従った結果、クニマスという資源を失ったのだから(失った資源はクニマスだけではないが)。

 では、クニマスが秋田の田沢湖へ里帰りするため、これからどうすべきか、勝手に叩き台をつくってみることにする。

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 前述の通り、クニマス田沢湖から消えたのは軍国主義時代の旧日本帝国政府の施策によるもの。漁師は反対したものの、異を唱えることは非国民・国賊扱いされる時世だったから、やむなく補償を受け入れて漁業権を放棄した。田沢湖に毒水が注ぎ込まれる光景を、住民や漁師たちは歯を食いしばって眺めるだけだった。

 そして一年でクニマスは滅んだ。

 この動かしがたい事実がある限り、クニマス里帰り計画の補助を国に求めることは当然の権利である。仙北市は、県や国(現政権)に対し、田沢湖の早急かつ抜本的な水質改善を要求しなくてはならない。年明けにも陳情へ出向くべきであろう。

 さて、では田沢湖の水質改善には、いかなる手段が有効か。現行では玉川と先達川の水が導水路を通して田沢湖流入しているが、これがpH値5ちょいの酸性水田沢湖がサケ科の魚類の生息できる環境になるにはpH6〜8が絶対条件であるなら、これでどうやって水質改善が実現できるのか、理解できない。導水路は中和化に何の意味もなさないどころか、水質悪化も招くだけではないかと思う。ただちに封鎖するか、pH8くらいにしてから流入させるべきではないか。

 そのほか、前回にも書いたように、中和施設を湖畔や湖面に新設して、水質改善を促進する手だても検討されてよいはずだ。いずれも市・県独自の財政ではなく、クニマスを絶滅せしめた国家が一定以上を負担すべきであろう。

 つぎにソフト面。もしも将来、クニマスの里帰りが実現した後の話だけれど。

 クニマスは太古より、田沢湖にしか生息していなかった。田沢湖こそがクニマスの日本で唯一の生息地である。それが過去に卵の譲渡が行われた西湖で生き延びていたのであれば、西湖も「クニマスの生息地」を名乗る権利を有する(もしかしたら本栖湖も加わるかもしれない)。

 となれば、現時点でクニマスの生息が許されるのは田沢湖と西湖の2湖となる。

 ここで懸念されるのは、他の湖沼が、クニマス移入を画策するかもしれないということ。水産資源のとぼしい人造湖、とくに完成したばかりのダム湖が、クニマス生息地として名乗りをあげることが想定される。たとえば森吉山ダムの四季美湖や、岩手の胆沢ダム湖あたりから「ぜひ我が町の○○湖にクニマスを」なんて要望が、町おこし狙いで出てくる可能性がある。これに対しては、田沢湖や西湖はきっぱり断るべきであろう。クニマス田沢湖と西湖にのみ、生息を許された魚だ。日本国内であろうと、他の湖沼に移入したらそれは外来種である。外来の生き物をこれ以上拡散してはならない。

 したがって、晴れて田沢湖に戻ってきたクニマスは、その管理を厳重にしなければならない。比内鶏のように天然記念物に指定し、漁や釣りは一年を通して原則禁止とする。無許可の持ち出しも不可。ただし、クニマスは戦前まで漁師たちの生活の糧でありながら、漁できる人がいなくなった経緯をふまえ、江戸時代から盛んに行われ、干拓にともなって廃れた八郎潟のワカサギ氷下漁がときどき再現されるように、失われた過去の風物、先人より受け継がれた郷土の文化として、何らかの形で遺せるように配慮すべきであろう。

 一方で、クニマスが秋田の食文化の一端を担っていた点を無視してはならない。そのため、湖畔に孵化場をつくり、そこで養殖したクニマスを、レストランや民宿で提供できるようにする。まぼろしだったクニマス料理を求め、観光客が殺到することが予想される。田沢湖は唯一無二の食材・観光資源を手に入れたことになる。これは西湖も同様であろう。孵化場には簡易水族館を併設し、回遊しているクニマスを見学できるようにもしたい。

 田沢湖に魚がよみがえっても漁や釣りは出来ないが、クニマスを釣ってみたいという要望が出ることが予想される。その人たちのため、クニマス釣り堀を設けるのも一計である。釣ったクニマスはその場で料理するのが望ましいが、持ち帰って自宅で捌きたい場合もあろう。この場合、他の水域へ放流されるリスクが付きまとうので、釣り人のモラル任せとなる。 
(また編集します) 

クニマス里帰り目指しプロジェクト 県と仙北市
 田沢湖だけに生息していた絶滅種クニマス山梨県の西湖で見つかったことを受け、県と仙北市は17日、「クニマス里帰りプロジェクト(仮称)」を展開していくことを決めた。21日に関係職員が県庁で初会合を開き、クニマス入手や増殖などを見据えて今後の方策を協議する。
 県地域活力創造課などによると、具体的な方向性は未定だが、クニマスを本県で見られる状態にすることを前提に入手を試みるほか、試験施設での増殖なども視野に検討を進めるという。同課は「地域振興につなげる形でプロジェクトを展開していきたい」としている。
 初会合の結果を踏まえ、門脇光浩仙北市長や田沢湖観光協会のメンバーらは25、26日に京都大と西湖を訪れ、生息確認などに対する感謝の気持ちを伝えるとともに、クニマスの里帰りに向けた話し合いをする予定。
(2010/12/18 11:04 更新)
http://www.sakigake.jp/p/akita/news.jsp?kc=20101218e