クニマスが生きていた

 昨夜、郷里秋田を仰天させたクニマス生存のニュースの続報。

クニマス山梨県・西湖で生存 70年前、田沢湖で絶滅
 70年前に田沢湖に玉川の強酸性水を導水した影響で絶滅した田沢湖固有の淡水魚クニマスが、山梨県富士五湖の一つ、西湖(さいこ)で生き残っていたことが15日、京都大学の中坊徹次教授らの調査で分かった。
 絶滅する5年前の1935年に、田沢湖から西湖にクニマスの発眼卵10万粒が移出されたとの記録があり、これらが繁殖していたとみられる。これまでも西湖でクニマスとみられる魚が捕獲されていたが、地元では「クロマス」と呼ばれ、絶滅種とは認識されていなかった。
 中坊教授によると、クニマスが捕獲されたのは今年3月。▽体色が全体的に黒っぽい▽3月に卵を抱えている—といったクニマス特有の外見や生態が備わっており、遺伝子解析でも近縁のヒメマスとは異なっていた。(2010/12/15 11:33 更新)
http://www.sakigake.jp/p/akita/news.jsp?kc=20101215f

 半信半疑だったけれど、どうやらマジだったらしい。地球上で田沢湖にのみ生息していながら、絶滅に追い込まれた固有種クニマスが、70年のときを隔てて、私たちの前に姿を現した世紀の大ニュース。

 感慨無量である。ニホンオオカミ発見に匹敵するし、ツチノコ発見のロマンにも通ずる。人間でいえば無垢な縄文人――蝦夷や土蜘蛛が現れたに等しい。こんなことがあるなんて……。

 だが、西湖のクニマスはもはや西湖という水体でしか生きられないかもしれない。もし可能なら、西湖から田沢湖へ――“クニマスのふるさと”へ戻したいと思うのは私だけではないはず。しかし田沢湖はすでに、過去の姿ではない。朝日新聞では、魚類の権威で尊敬する学者でもある杉山秀樹さんが「田沢湖クニマスが絶滅したのは事実。(西湖のクニマスは)いわば国内産外来種だ」「田沢湖ではもうすめない。貴重な固有種を人間が絶滅させた間違いを二度としてなはらない」と語る。

 田沢湖は、水質・透明度・環境すべて、様変わりした。表面的にはきれいな湖だが、玉川毒水によるpH値悪化は、ほとんど改善が見られないのだ。いまでは古老しか知らぬ「鳴き砂」も、消えうせた。

 でも、もし県民が本気で、かつての田沢湖をよみがえらそうとすれば、決して不可能ではないはず。それには百年単位の年月を要するだろうが、クニマスが群れをなし、鳴き砂がざわめく田沢湖復活を目指す気持ちに偽りがなければ、実現は可能であろうに。

 いまこそ、本気で議論すべきときではないか。70年の時を超えて姿を現したクニマスは、それを私たちに呼びかけているような気がする。

 気になること。山梨県の西湖は、ブラックバスが釣り対象として公式に認められていて、放流が許可されている。今回の件で見直されればいいのだが。