小沢幹事長と胆沢ダム(追記あり)

 胆沢(イサワ)という地名は古来からあり、由来はアイヌ語(夷語)で「イ(それが)サハ(山間の平地)」と説明がつくそうです(由来については諸説ある)。

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 民主党小沢一郎幹事長の元秘書である北海道選出の代議士が逮捕され、小沢さんの現役秘書も相前後して逮捕されました。「胆沢ダム」にからむ献金問題が日増しに大きくなっている模様なので、胆沢ダムについて書いておきます。

 私が関わっている成瀬ダムと胆沢ダムは、共通点が多いのです。どちらももともとは農業用ダムで、これに治水(洪水調節)という目的があとからくっついて、規模が拡大、事業費もどんどん膨れ上がっていきました。成瀬ダムは300億程度から1550億円へ、胆沢ダムは約1300億から2440億円へと、時間が経つごとに膨張する仕様となっています。

 巨大ダムが巨額な税金を消費する金食い虫であることは周知の事実ですが、ほんとうに必要なモノなら、どんなにお金や時間がかかっても造るべきだし、必要ないモノなら、どこまで事業が進んでいようが中止すべき。たとえ進捗率が90%、あるいは100%、つまり完成したとしても、中止して撤去すべきだと私は考えています。完成したダムを撤去するとなればこれまた税金を浪費することになりますが、業者が儲かる構図は同じなので、癒着業者へ仕事を与えて献金をゲットするというウラの目的にかなうのなら、無駄なダムを取り除くことをなんらためらう理由はないでしょう。

 昨年9月14日に書いたとおり、胆沢ダムは、必要性は確かにありますが、“不必要性”については、私はあまり自信がありません。いや、個人的には胆沢ダムは要らないと思っています。すくなくとも、あれほどの規模で造ることはなかったはずです。でも私は地元人ではないし、深く立ち入って胆沢ダムの欺瞞をあぶり出す余裕も取材力もありませんでした。ただ、社用で現地を通るたび、なんでこんなにでっかいダムを造るのかと、新築された御殿のような移転家屋をやっかみ混じりの目で見ながら、思ったものでした。

 でも胆沢ダムは、見事なまでに反対の声が上がりませんでした。過去に石淵ダムというダムが造られたころ、役人たちは水没住民に対し、土地収用法をちらつかせ、狡猾・強引に立ち退きをせまったものです。これはいまも語り草になっており、胆沢ダムによって二度目の移転を持ちかけられた住民たちは、かつてハメられた悔しさをバネに、俺たちが簡単に土地を明け渡すと思うなよ、さあこい役人ども、という気構えで国交省との交渉に臨んだのです。

 それが、実にあっさりと、住民たちは移転に合意しました。理由は簡単です。満足な補償を得られたから。それだけ。旧胆沢町の街を車でひと回りすれば理解できます。ひと目でそれとわかる豪邸があちこちにありますから。

 ここまで来てしまった以上、胆沢ダムは中止という選択肢は、もはや現実的ではありませんが、いったいなぜ、反対の声があがらなかったのでしょう。それとも私が知らないだけで、小さいながらダム反対の声があったのでしょうか。

 尊敬するジャーナリストの横田一さんは、「週刊金曜日」782号(2010/01/15)でこう書いています。

 胆沢ダム計画は、既存の石淵ダムとは別に巨大なダムを新たに建設するもので、大きな理由は農業用水不足の解消だった。しかし農業用水の必要量は現在の二倍程度で十分なのに、胆沢ダムの貯水量は石淵ダムの約一〇倍となった。地元町長らは「小沢さんのおかげ」と感謝したが、国民(納税者)には「税金の無駄」にしか見えない。

 横田さんは15年ほど前から、小沢氏の地元である岩手の内情を取材したと同紙で書いていますが、15年ほど前に胆沢ダムの不必要性を、果たして説いておられたのかどうか。なぜもっと早くに胆沢ダム=「税金の無駄」の構図を、声高に訴えてくれなかったのか、一抹の疑問を覚えました。胆沢ダムより規模のずっと小さい簗川ダム(盛岡市)や津付ダム(住田町)には反対運動があるのに、胆沢ダムにそれがないのはどう考えても不健全です。横田さんが当初から胆沢ダムの無駄さに気づいていたなら、雑誌等で大いに提唱し、地元の有志を目覚めさせ、サポートしてほしかったのですが。

 小沢氏をめぐる不透明な献金疑惑は、胆沢ダムから発しています。胆沢ダムはすでに完成間近にあり、渦中にありながら本体工事に着手していない八ッ場ダムや川辺川ダムとは大きく違います。「税金の無駄」で、疑惑で濁った水が満水状態の胆沢ダムを、国民はどう扱うべきか、ひとつの試金石にできそうな、そんな芽が出てきた気がします。

胆沢ダムにあって八ッ場ダムにないもの。それは「必要性」

 追記でこんなニュースも貼っておきます。

胆沢ダムはなぜ工事続行なのですか 参院代表質問で自民
 「なぜ八ツ場(やんば)ダムは中止で、胆沢(いさわ)ダムは続行なのですか」
 20日午前の参院本会議での代表質問で、自民党尾辻秀久参院議員会長が、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体陸山会」の土地取引をめぐる事件でも注目されている胆沢ダム岩手県奥州市)を取り上げた。
 胆沢ダムをめぐっては、受注にあたってゼネコン側が裏金を作っていた疑いが持たれており、陸山会が2004年に取得した土地の購入原資4億円の一部に回った可能性があるとみて、東京地検特捜部の捜査の焦点になっている。
 尾辻氏は八ツ場ダム(群馬県長野原町)について、「地域住民の長い間の労苦、努力を無視し、継続事業も廃止した」と指摘したうえで、「一方で小沢幹事長の地元で建設中の胆沢ダムは事業検証の対象外となった」。両ダムの扱いの違いについて、首相に説明を求めた。
 これに対し、首相は「できるだけダムに依存しない治水政策を進めるとの考えのもとで全国のダム事業を検証している」とし、「すでに本体工事に着工しているものなど、一定の客観的な要件を満たしているダムは継続することにしている」と説明した。
http://www.asahi.com/politics/update/0120/TKY201001200237.html

 「胆沢ダムはなぜ工事続行なのか」との疑問ですか? 無駄じゃないからです。完璧には程遠いけれど、胆沢ダムは「必要性」があるのです。それがわかりませんか?

 胆沢ダムの目的も利水と治水です。利水・治水ともに無駄であれば中止になります。でも無駄じゃないのです。無駄だというなら根拠を示してほしいです。農業用水が足りていること、洪水対策には役に立たないことを証明してほしいです。そうすれば胆沢ダムとて中止にできます。たとえ完成間近であろうと、中止して撤去に追い込めます。

 尾辻秀久参議院議員にお伺いしたい。胆沢ダムを中止すべきだというなら、理由を教えてください。私も八方手を尽くして調べているのですが、いまだに「胆沢ダム=無駄」の決定的な証拠を見つけておりません。ゼネコン企業献金の温床であることは15年くらい前から知ってましたが、だからといってダム中止になるわけではないから。

 尾辻議員は小沢幹事長にからめて突っ込みたいのが見え見え。「小沢氏の地元だからだろう」と言いたいだけなのでしょう。まるでチンピラのイチャモンですね。小沢氏に良くない感情を抱いている国民のウケ狙い。自民党も落ちたものです。これが祖国の国会の本会議で行われる代表質問の風景なのです。