「八ッ場ダム中止」の余波

 自民党政権が半世紀前に計画しながら、未だに完成できず、群馬県にて建設が進む国交省直轄「八ッ場ダム」を、民主党中心で樹立した新政権が「中止」を打ち出したことで、その余波が予想以上に広がっている。マスコミで報道されている風潮の多くは批判的なもので、関東都県の知事がこぞって「中止はけしからん」と口をそろえるさまを報じている。その内訳をざっと並べておくと――。

1.八ッ場ダムを中止した方が高くつく
2.八ッ場ダムはすでに7割もできている
3.八ッ場ダム利根川の治水対策として重要

 ほかにもあるけれど、この3点が大きい。

 ぶっちゃけ、どの「推進論」も、空論というか無知というかすり替えというか、実態を知らずに(それとも知りながら、癒着業者や天下り官僚にいいカオ見せたくて?)やみくもな事業継続を煽り立てるゴリ押し論であり、まさに自民党政治家の面目躍如といったところ。

 八ッ場ダム中止は民主党政権公約マニフェスト)に明記されており、民主党が総選挙で躍進したこと自体、八ッ場ダム中止は明白な民意であるわけだが、各都県知事はあくまでそれを認めず、上に書いたような無茶苦茶なゴリ押し論を振りかざして、八ッ場ダム断固造るべし、とまくし立てて、マスコミもこれをそのまんま報じている祖国の風景なのである。

 では上の1、2、3がいかに「無茶苦茶なゴリ押し」であるか、それを解説してみよう。

1.八ッ場ダムを中止した方が高くつく?

 大ウソ。中止したほうがはるかに安上がり。

 八ッ場ダム建設事業の事業費は4600億円(水源地域対策特別措置法事業と水源地域対策基金事業も含めると、約5900億円)とされているが、ダム事業を継続すれば、ダム完成までに事業費の大幅増額は必至である。増額要因としては、東京電力への多額の減電補償(吾妻川の大半を取水している5つの発電所への発電減少分の補償)が残されていること、貯水池予定地の周辺で地すべりの危険性がある場所が22箇所もあるため、大滝ダムや滝沢ダムの例に見るように、新たな地すべり対策費が膨れ上がる可能性がきわめて高いこと、関連事業の工事進捗率がまだ非常に低く、完成までにかなりの追加予算が必要となる可能性が高いことなどがある。

 八ッ場ダム事業を継続した場合は上述の要因によって1000億円程度の事業費増額が必要となると予想される。仮に1000億円とすれば、八ッ場ダム建設事業の今後の公金支出額は残事業費1390億円+1000億円=2390億円となる。

 一方、中止した場合の必要事業費は国交省が示す生活関連の残事業費770億円程度である。

 したがって、中止した方が差引き1620億円も公金支出を減らすことができる。

2.八ッ場ダムはすでに7割もできている?

 事業費ベースでの予算消化は、たしかに7割に達しているが、実態はまったく別。

 7割というのは、八ッ場ダム建設事業の事業費4600億円のうち、7割が平成20年度までに使われたということであって、工事の進捗率とは全く別物である。本体工事は未着手である。関連事業のうち、規模が大きいものは付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成であるが、平成20年度末の完成部分の割合はそれぞれ6%、2%、75%、10%であり、まだまだ多くの工事が残されている。付替鉄道は75%まで行っているとはいえ、新・川原湯温泉駅付近は用地未買収のところがあって、工事の大半はこれからであるから、完成までの道のりは遠い。

 八ッ場ダムの完成予定は平成27年度末で、今年度後半から本体工事着手となっているが、実際の完成は大幅に遅れる可能性が高い。八ッ場ダムの場合、ダムサイト予定地を国道と鉄道が通過しているので、付替国道、付替鉄道を完成させ、現国道と現鉄道を廃止しないと、本格的なダム本体工事をはじめることができない。この付替国道、付替鉄道の工事が用地買収や地質の問題で大幅に遅れているので、事業が継続されても、ダムの完成は平成27年度末より大分先になることは確実である。

3.八ッ場ダム利根川の治水対策として重要?

 カスリーン台風再来時の八ッ場ダムの治水効果はゼロ
 利根川の治水計画のベースになっているのは1947年のカスリーン台風洪水であるが、同台風の再来に対して八ッ場ダムの治水効果がゼロであることが国土交通省の計算によって明らかになっている。2008年6月6日の政府答弁書は、カスリーン台風再来時の八斗島地点(群馬県伊勢崎市にある利根川の治水基準点)において、八ッ場ダムの治水効果がまったくないことを明らかにした。これは八ッ場ダム予定地上流域の雨の降り方が利根川本川流域と異なっていたからであるが、他の大きな洪水でもよく見られる現象である。

 以上、八ッ場あしたの会・八ッ場ダムを考える会HPから貼らせていただいた。

 普通に考えて、住民の生命と財産を守るためのダムが、計画策定から半世紀以上もダラダラと工事を続け、本体すら未着工だなんて、おかしいと思わないだろうか。必要ならとっくに出来上がっていなければいけないのに、なんでいまもって堤体工事すら手付かずなのか。「普通に考えて」と書いたが、都県知事さんたちは、普通に考えることができない知能なのだろうか。

 もしもこのまま八ッ場ダム事業継続なら、事業費のさらなる膨張を招き、財政が立ち行かなくなることは明白。それなのに台風のときに利根川に立ってみろ、などと見当違いかつ陳腐な感情論を展開したり、石原都知事にいたってはこんなことを。

 石原慎太郎東京都知事は「異常気象が深刻化しており、日本だって、いつ干ばつにさらされるか分からない」から八ッ場ダムを必要だと語っているが、これは八ッ場ダムについての知識を持たないことによる発言である。
 八ッ場ダムはそれほど大きなダムではなく、夏期は洪水調節のため、水位を下げるので、利水容量は2500万m3しかない。一方、利根川水系にはすでに11基のダムがあって、それらの夏期利水容量は合計では4億3329万m3あるから、八ッ場ダムができても、約5%増えるだけである。
 渇水が起きることがあるのはほとんど夏期であるから、夏期の利水容量が重要であるが、八ッ場ダムはその容量が小さいダムなのである。
 大渇水が来るという話自体が現実性のない話であるが、そのことはさておき、八ッ場ダムが完成しても、利根川水系ダムの状況が現状とそれほど変わるわけではないから、都知事の発言は完全にピント外れである。
(上記サイトから)

 この程度の人間が東京都知事なのである。しかしこういった自民党系政治家が、これまでの祖国・日本の政界を牛耳っていた以上、長々とつづいた自民党政治の残滓を一掃するのは容易ではない。民主党は、自民党政治負の遺産処理と後始末をし、同時に国民の意識改革を推し進めなければならない。

 荒療治ではあるけれど、八ッ場ダム中止はその試金石となるだろう。新政権にはがんばってほしい。

 そして、この「八ッ場ダム」でだれが一番オイシイ思いをしたか、巨大公共事業のもつ本質的な問題に、ぜひ迫っていただきたいと思う。