デマを流す月刊誌

 先に死去した筑紫哲也さんの実名が朴○寿という朝鮮名だなんて、筑紫哲也在日朝鮮人説がまことしやかにネットでは語られていました。その出自というのが個人ブログで、ようするにデマに過ぎなかったわけですが、こういうデマを流布し、どうやら定着したと悦に浸る人間が実在するのもネットならでは。「筑紫哲也 朴○寿」で検索すると、ヤフー検索では3万を超えるヒット数です。筑紫さん以外にも、たとえば池田大作氏とか辻本清美さんとか佐高信氏とかにも“朝鮮名”があったりします。(参考・◆ 美しい壷日記 ◆さん)

 著名人でなくとも、民主主義をおびやかすような大事件が起こった場合も、加害者に朝鮮名が付けられて、ネット界に流されたことがありました。卑近な例では、長崎市長を暗殺した容疑者に、実名は白○哲、だなんてデマが、電光石火でネットに流され、広まったのはそう古い話ではありません。

 「○○=在日朝鮮人」が、ここまで広く周知されているなら、きっと事実なのだろうと思い込む人がいるのもしょうがないけれど、取材・報道のプロで、すくなからぬ実績をあげてきたジャーナリストが、こういったデマを信じ込み、記事にして出版・販売してしまった実例があります。

土井たか子氏、出版社側提訴
 月刊誌「WiLL」が社民党元党首の土井たか子氏が朝鮮半島出身であるかのような記事を掲載したことに対し、土井氏は18日、事実に反し、信用や名誉などを毀損(きそん)されたとして、発行元のワック・マガジンズ(東京)と代表者らを相手取り、全国紙への謝罪広告の掲載と損害金1万円を求める訴えを神戸地裁に起こした。
 訴状によると、同誌は06年5月号に掲載した論文「拉致実行犯辛光洙シン・グァンス)釈放を嘆願した“社民党名誉党首”」の中で、「土井氏は知る人ぞ知ることではあるが、本名『李高順』、半島出身とされる」などと言及した。土井氏側は「事実無根の捏造(ねつぞう)記事で、土井氏に対する取材に基づかない一方的な推測で作成したものだ」と主張している。同誌の花田紀凱編集長は「訴状を見て対応したい」と話している。
http://d.hatena.ne.jp/binzui/20071023

 個人ブログや2ちゃんねるあたりでデマを垂れ流すだけなら我慢できても、公的な出版物でデマを発信されてはたまりません。こころある人ならデマを書くことも流すこともはばかるものだけれど、この著者と編集者は、こころある人間ではなかったことになります。

 編集者は記事にもあるとおり、花田紀凱編集長。執筆したのが、花岡信昭産経新聞客員編集委員です。この、こころないお二人に対する判決が、きのう13日に出ました。

月刊誌「WiLL」の記事は「虚偽」、土井元衆院議長が勝訴
 月刊誌「WiLL」に掲載された事実無根の記事で名誉を傷つけられたとして、土井たか子・元衆院議長(79)が、出版社「ワック・マガジンズ」(東京都千代田区)と花田紀凱(かずよし)編集長(66)ら2人に、慰謝料計1000万円の支払いなどを求めた訴訟の判決が13日、神戸地裁尼崎支部であった。
 竹中邦夫裁判長は「明らかに虚偽」などと指摘し、同社と花田編集長らに計200万円の支払いを命じた。
 判決によると、花田編集長らは同誌2006年5月号に、土井氏が「(朝鮮)半島出身とされる」との虚偽の記事を記載した。
 土井氏は全国紙への謝罪広告掲載も求めていたが、竹中裁判長は同誌の実売部数が少ないことを理由に必要性を認めなかった。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081113-OYT1T00593.htm

 どういうわけか、原告の求めた慰謝料の金額が、1000万円に跳ね上がっています。たしか提訴時は1万でした。当初は、慰謝料よりも全国紙への謝罪広告を本丸としていたようですが、裁判長に言われて増額したのか、それとも原告弁護団の方針が変わったのか、その辺はよくわかりません。

 土井さん=在日朝鮮人説もまた、ネット界でまことしやかにウワサされていたデマに過ぎないのですが、花岡信昭産経新聞客員編集委員花田紀凱・WiLL編集長は、デマを事実と信じ込み、公的出版物を利用して、読者への周知を企画しました。あるいはデマとわかっていて、これに信憑性を付帯させようと、怪しげなネットではなく信用ある(?)媒体にて流布を実行されたのかもしれません。

 月刊誌「WiLL」は、花岡信昭氏と花田紀凱氏の思惑が一致して土井=朝鮮人というデマの流布を行いましたが、慰謝料200万という代償を背負うことになりました。私からすれば200万は大金ですが、花岡信昭氏と花田紀凱氏にとってはどうということはないでしょう。二人で折半すれば100万。月刊誌「WILL」は広告がたくさん掲載されているし、田舎の書店にも平積みで置かれていて、けっこう売れているようですから、お金をくれるスポンサーの確保に困る心配もないでしょう。

 花岡信昭氏と花田紀凱氏は控訴するのかわかりませんが、敗訴にめげることなく、今後も自信を持って、デマを発信してください。あなた方の発するデマを待ち望む読者はたくさんいますから。