さきがけ連載「独立するべ」

さきがけのタイトル


 郷土紙『秋田魁新報』(通称さきがけ)が、元旦から8日付まで大型連載をぶった。

http://www.sakigake.jp/p/special/08/virtual01/virtual-prologue1.jsp

 「独立するべ バーチャル国あきた」という刺戟的なタイトルのそれは、若杉という架空の知事が、××年後の未来の秋田にて、日本国から独立して「希望の国」づくりに県民あげて励むという近未来の物語。創り話(フィクション)ではあるけれど現実味があり、突飛ではあるけれどやる気を起こさせ、荒唐無稽ではあるけれど支離滅裂ではない。文字通り「希望」に満ちている、そんな未来像を描いていた。

 第一章連載は8日でいったん終わり、第二章が企画されているらしい。「独立しよう」ではなく「独立するべ」という秋田弁のタイトルは否応なしに目を引いた。バーチャル(架空)のお話とはいえ、秋田県民を引っ張る報道機関が、県民に希望を持ってもらおうと、こうした連載を年始から展開するのは好ましく、頼もしいといえる半面、マスコミが多少のリアリティで装飾を施したお遊びで、さびれゆく秋田の暗い未来を誤魔化そうとしただけという気がしないでもない。

 秋田に生まれ育ち、郷里を見つめつづけて40年になるが、私は秋田・東北以外に住んだことがなく、ましてや若杉知事がお手本にしたというソレイユ島共和国だのといった海外の手法など知るわけもないから、この大型連載が果たしてどれだけ実現に近づけるか判定する能力はない。だから連載企画の批評(それはマスコミ批評)などする資格すら持たないわけだけれど、それを承知で、思ったことを感想がてら述べておきたい。

 知事は独立にあたってこう語った。

 「独立した先の秋田を希望の国にしたい。環境を守り、循環型産業を発展させ、弱者に優しい国づくりを貫く。日本はじめ諸外国からバカンス客を導き、人間回復エリアにしたい。経済的に日本より劣っても、多くの国から『幸福感が詰まった理想の国』として認知されるだろう」

 逆に言えば、現状の秋田はこうなる。秋田の未来は絶望しかない。環境を破壊し、資源を食いつぶし、弱者を虐げている――と。若杉知事は郷里がまるでこの世の地獄であることを自ら認めたことになろう。それではいけないから、それを打開するための独立。上記の問題を克服し、「幸福感が詰まった理想の国」をつくるというのだ。

 連載では、「理想の国」になるためのプロセスを具体例を挙げながらつづっている。荒れ地を菜の花畑に変えて農業を再生したり、バイオ燃料や水素で動かす自動車、太陽光を利用した“電田”で脱石油を図ったり、ケイタイ電話などのデジタル機器を鉱物資源に置き換えたり――といった内容。

 素人考えでも不可能ではないどころか、実現していることばかりだ。なにも独立しなくても、その気にさえなれば、ほんの数年で上のことがらは秋田に浸透されよう。

 問題は「その気になる」かどうかだろう。独立するくらい革命的な変革が、若杉知事にでなく秋田県民の意識に生じないかぎり、「理想の国」は不可能ということか。だから独立なのだろう。

 実は、秋田県の住民は過去に、独立を政府に要求したことがある。それもかなり強力にだ。なにしろ1200年前の話だから記憶している人はゼロだけど。

 元慶の乱で、秋田の蝦夷は朝廷軍を打ち破った。律令政府による苛政に地震と飢饉が重なり、わが郷里の遠い祖先はやむにやまれず立ち上がった。そして朝廷に対し出羽の独立を要求したのである。2万年前よりここに暮らし、自由におおらかにのびのびと生きてきた先住民が、渡来大和人の圧政・圧制に縛られることなく、本来の権利を勝ち取ろうと動いたのだ。

http://d.hatena.ne.jp/binzui/20070716#1184548304

 そんなおとぎ話みたいな歴史をここであげつらってもしょうがないけれど、県民の命にかかわる重大事が逼迫、もしくは経験がないかぎり、住民が立ち上がることはない。

 若杉知事の意気はだれも否定しまいが、自民・公明両党が牛耳る日本政府の圧制・圧政に真っ向から立ち向かえる政治家は、秋田にここ1000年くらい現れていなさそう。戊辰戦争秋田藩奥羽越列藩同盟を脱退し、官軍側について、他の東北藩を裏切ったのはたかだか140年前のことだ。もっとも秋田藩主は水戸から降った人物の子孫だったが。

 独立か。結局は県民が決めることになろうが、強い力で県民を引っ張る手腕の持ち主でなければ不可能。そんな政治家は現われやしない。絵に描いた餅。

 こんな企画を掲げた魁新報にもひとこと言っておくと、秋田県を『幸福感が詰まった理想の国』にすべく、本気で県民の意識改革を進めるのであれば、若杉知事みたく反発を覚悟で、日本国家が血道をあげて取り組んでいるH村の某自然破壊に切り込んではいかがですか。大仙市のMダムですら、寺田知事を援護すべく報道を一切おこなわないどころか、ゼネコンの代弁のごとき社説をぶち、腑抜けみたいな報道でお茶を濁していたのはどなたですか。