栗駒黒定公園

タチツボスミレとミヤマキケマン


 仕事で宮城県大崎市に行ってきた。国道108号をひた走り、秋の宮温泉峡から鬼首峠―鳴子温泉峡は新緑真っ盛り……ではあったが、見たくない光景が広がっていた。

 10年以上前にバイパスが開通し、108号仙秋ラインは通年通行ができるようになったが、この山間部は、それよりずっと前から“開発”されているのだ。

 かつて秋田を吹き荒れた原生林の乱伐、その伐採痕に植えられたスギ人工林が生長し、黒々と広がっているのである。

 ここは栗駒国定公園。標高1000〜1400メートルの山々が左右に連なり、ブナ原生林が広がり、古くからある温泉も多く、全国的にも有名な観光地だ。

 豊かな自然で知られている場所だが、じつは自然は豊かではない。豊かなのは、自然破壊であろう。

 春紅葉という言葉がある。春を迎えた木々がいっせいに芽吹き、色とりどりの花や若葉を開かせる。単一色ではない。まさに紅葉といえる。山が萌えさかる、一年でもっとも美しい季節なのだ。

 しかし、かつて大規模に伐採された原生林は、ことごとくスギに植え替えられ、その深緑、あえて言えば「黒い森」が、もっとも目立つ時期でもある。

 とくに秋田県側が酷い。宮城県側は急傾斜地が多いためか、植林地はさほど多くない。

 たとえスギでも、どころどころにピンポイントで点在するのであれば、紅葉を引き立てて絶妙なバランスを醸し出すものだが、なにせ山の半分以上がスギ植林地となっているのだ。黒アザどころか、もはやコールタールで山を塗りたくったような光景なのである。

 なんとも悲しい、やりきれない光景であった。山桜のピンクやブナの淡い緑が、黒い森のアメーバに浸食されているようだ。

 それだけではない。高圧送電線の鉄塔が、この深山にも縦走しているのだ。

 新緑萌える山の頂上や中腹に、タケコプターよろしく、でっかい鉄塔がボコボコとつづいているのは、無粋を通り越して、もはや下品の極み。

 里山ならまだいい。ここは国定公園。これで国定公園。聞いて呆れる。国定は国定でも、黒定、もしくは黒アザ公園とでも言い換えてしまおうか。

 日本ではじめてユネスコ世界自然遺産に登録された白神山地を擁する秋田の、これが国定公園なのである。