叡←なんて説明する?

 1999年、岩手県でこんな珍事があった。

 大迫町(現花巻市)の早池峰ダム湖の名称が、「早池峰権現湖」(はやちねごんげんこ)に内定した。

 岩手県では新ダム湖の名称を一般から公募していたが、「権現湖」の名は、一件もなかった。

 応募数が最も多かったのは「早池峰湖」。しかしその名称は、却下された。

 「早池峰権現湖」なる名称を提案したのは、だれか。財団法人土木研究センターの風土工学研究所(つくば市・97年設立)というところだ。早池峰山や大迫とは縁もゆかりもない。

 その風土工学研究所の所長が、公募であつまった数々の作品を無視し、「早池峰権現湖」を押し付けたのだ。

 反発が沸き起こった。民意・住民無視だと。あわてた県は選考をやり直し、「早池峰湖」に再決定したのである。

 岩手県は、風土工学研究所に1700万円を委託料として支払っていた。「早池峰権現湖」という使えない名称のために。

 ㈶土木研究センターは、今月23日からの事業仕分けの対象事業所にはなっていないようだが、こういうふざけた仕事をしてカネをもらっている役人くずれがいることは、末代まで記憶しておくべきだろう。

 さて、最近こんなニュースがあった。

統合高校名は秋田北鷹、湯沢叡陵 来春開校の2校、県教委発表
 県教育委員会は15日、来年4月に開校する北秋田、湯沢両地区の統合高校の校名を「秋田北鷹(ほくよう)」、「湯沢叡陵(えいりょう)」とすると発表した。
 県教育庁高校教育課は、秋田北鷹について「北の大地から、鷹のように若人たちが力強く未来へ羽ばたいてほしいとの願いを込めた」、湯沢叡陵は「生徒たちが切磋琢磨しながら、新たな歴史を築き、力強く成長してほしい」と述べた。
(以下略)
http://www.sakigake.jp/p/akita/topics.jsp?kc=20100415m

 web記事にはないが、「湯沢叡陵」の名称も公募外だという。アンケートはあくまで参考で、数にこだわらずふさわしい名称を決めるのが原則なのだそうだ。ようするにアンケートは、単なるセレモニーに過ぎないということ。

 「叡陵」の名を発案したのはだれだろう。湯沢市民ではないし、アンケートに応募した1000人超のひとでもない。秋田県教育委員会のだれかだろうが、その人は湯沢市に縁やゆかりがある人なのだろうか。

 湯沢市の風土や文化や気候や、ひとびとの気質を知りぬいた専門家なのだろうか。母体となる湯沢商工高校や、湯沢北高校の卒業生なのだろうか。

 叡陵か。陵はまだしも、「叡」などという字、そうそう書ける字ではない。読むこともおぼつかない。漢字や漢文にこだわる人でもない限り、使うこともまずない。

 高校名を聞かれて、生徒は湯沢エイリョウ高校ですと答える。相手はエイとは英語の英ですか、栄えるですか、と聞くだろう。さて、の字をなんと説明すればよいだろうか。電話でのやりとりや、手もとに紙やペンがない場合を考えてみてほしい。

 よくもまあ、こんな難解で不便で使い勝手の悪い字を発掘したものだと思う。そういう意味ではさすが教育委員会だ。例にあげた早池峰権現湖が官製地名なら、「叡陵」も、まさに官製校名といったところか。

 話を戻す。叡陵なる名称を発案したのが、もし湯沢市に縁もゆかりもない人物なら、この名前、到底容認できない。