「秋田弁話してください」

 ネット初心者時代、チャットにはまっていたころ、メッセンジャーにはボイスチャット(音声チャット)という機能があり、タイピングの苦手な私は、面倒なときはよくヘッドセットをつかって、ルームの仲間と声でやりとりしていました。

 私が東北の秋田に住むということはルームの仲間みんな知っていましたが、みんなと会話するときは基本的に標準語で喋り、秋田弁はみじんも出しませんでした。仕事が営業なので、営業トークの延長でくだけた喋りをしているだけで、別に気取っていたわけじゃありません。

 でもたまーに言われました。「○○さん、秋田弁しゃべってみて」と。

 ボイチャで秋田弁はちょっと抵抗あったんですが、さわりだけ喋って聞かせると、みんな「へ〜」って感心するんですね。でもそれは観光客向け?の秋田弁でして、タレントの柳葉敏郎さんや佐々木希さんなんかもときどき披露している種類のもの。本物というか生粋というか、関西風にいうところの「コテコテの秋田弁」だと、普通の人には、まず聞き取れません。

 ある時、ルームに同郷の人が来たんです。横手市の男子高校生くん。

 生まれも育ちも秋田人なら、以前からやってみようと思ったことができる、これはチャンスだと思い、彼を誘ってみました。正真正銘の秋田弁トークをやってみよう、と。

 彼はOKし、ではすぐに頭のチャンネルを切り替え、標準語を追い出しまして、秋田弁タイムの開始です。

 ルームのみんな、関東から関西や東海地方などの仲間がいましたが、私たちの秋田弁トークを聞いた感想、「何いってるのか、ぜんっぜんわかんない」と聞いて、私はいたく満足しました。トーク内容、9割はわからなかったそうです。

 まさに秋田弁恐るべし、史上最強の方言です。

 とはいっても、いまの若い世代、小中高と秋田弁が学校内で交わされることは、激減しているそうです。年少になればなるほど、標準語に近くなっているというか、すっかり標準語になってしまったとか。私が秋田弁トークした相手も高校生ですが、6年前当時の彼の世代ではまだ流暢に操れるみたいでしたけれど、いまの高校生はどうでしょうね。

 方言は言葉の文化と言われます。秋田弁など東北の方言は、文字で表記するのがむずかしい。小さな川を表す「堰(せき)」は、秋田ではセギ、シェギ、ヒェギ、ヘギ、ヒギ、などなど、微妙に言い回しがことなり、どれも正しかったり、正しくなかったりなのです。

 秋田弁のルーツである古代東北弁は夷語(蝦夷語)と呼ばれ、アイヌ語に近かったといわれていますが、アイヌ語がそうであるように、夷語ももともと文字を持ちませんでした。縄文時代の言葉である夷語の面影をのこす生粋の秋田弁が、言葉の文化と言われつつも子どもたちへ伝えられることなく、廃れてゆくのは、寂しいものです。

 そんな絶滅が危惧される秋田弁をめぐる女子高生を描いた4コマ漫画が、いま評判だそうです。あったけさん作「あきた4コマち」。リンクしときますね。