「成瀬ダムは絶対必要です!」に反論 2

「かんがい用水確保」のまやかし

かんがい用水確保のために成瀬ダムの早期完成を!!

 成瀬ダムの最大の目的は、実は洪水調節ではない。農業用水確保である。いわばここからが本番、まず全文引用する。

■代かき時と夏場に水が足りない!
 雄物川筋農業水利事業が完了した昭和50年代と現在の状況を比べると、水稲の作付け品種が変化し、ほ場整備が進み営農機械が大型化しています。
 そのため、代かき期間が短縮され、。かんがい用水の需要が集中化しています。その上、夏場には河川の水量が少なくなり、営農に必要な量を取水することができず、特に平鹿平野地区の下流地域では、地下水を汲み上げるポンプを利用してかんがい用水を補っています。
 また、皆さんが当たり前に流れていると思っている冬場の水路維持用水も、成瀬ダム建設を前提として暫定で取水許可されているものです。ダム建設が中止になるようなことがあれば、冬期は頭首口から取水できなくなることが考えられます。
■ダムができればポンプの多くが不要に!
 成瀬ダムが完成すれば、夏場の渇水期にも必要な用水を確保することができます。更に、地下水を汲み上げるポンプも徐々に廃止することができます。
 かんがい用水を確保し、将来に亘り安定した営農を行うためには、成瀬ダムの建設以外ありません。

 例によってパンフレットでは触れていないが、「ほ場整備が進」んだ反面、作付け面積がどれだけ減ったか。「昭和50年代と現在の状況を比べると」、実にピーク時の7割に、作付け面積が減少しているのだ。つまり3割減反である。その一方で「ほ場整備が進み営農機械が大型化」したために「代かき期間が短縮され、かんがい用水の需要が集中化」しているとある。

 なんのことはない、「集中化」を分散化に切り替え、水をゆっくり流して、代かきをゆっくり進ませればいいだけのことである。別に代かきは期間限定のタイムサービスではない。

 「代かき期間が短縮」と「かんがい用水の需要が集中化」が問題なのであって、水の絶対量が不足しているというわけではない。パンフレットにもさすがにそこまでは書かれていない。なぜなら、水不足による被害=干ばつによる被害=干害自体、めったに発生しないのだから。秋田など東北北部の農家には「日照りに不作なし」という言葉が語り継がれている。農家同士で水をやりくりする「番水制」があるのだ。

 それでも下流域では、水不足に悩まされる農家が存在する。これは紛れもない事実である。パンフにある一農家の声を抄録する。

 水田に水を引く以前の水不足で揚水ポンプに頼らざるを得ない状況にある。長年使用している命の綱である揚水機が故障しないか、壊れたらいくらお金がかかるのか心配。どうしても安定した用水の確保が重要。揚水機がなくても米が作れるように、どうしても成瀬ダムが必要です。

 くだんの農家はダムが必要と結論づけているものの、その動機は「用水の確保」と語っている。つまり水が必要なのだ。その水を、いまの段階では揚水ポンプに頼っているわけだが、農家の「命の綱」である揚水ポンプには、どれくらい費用がかかっているのだろう。東成瀬村の村長は、ブログでこう述べている。

 一方、雄物川筋土地改良区でも「番水」が必要な事態になりそうだとのことで、一刻も早いダムの完成を願っていることや、800にも及ぶ地下水などのポッンプアップの電力補助金を、1,500万円も要している実態も知ることができた。
htp://www.higashinaruse.com/sennin_blog_01/?p=1146(直リン回避しています)

 電力補助金だから、修繕保守費用は農家負担となっているもようだが、それでも1500万円も、土地改良区は農家へ補助しているわけだ。村長は、この事実をもって農家の窮状を代弁しているつもりなのだろう。

 1500万円は、たしかに大金である。だが、成瀬ダム建設費にくらべたらどうだろう。

科目 金額
成瀬ダム建設事業費 153,000,000,000円
揚水ポンプ補助金 15,000,000円

 あえて乱暴に比較してみたが、その違いたるや1万倍である。「ダムができればポンプの多くが不要に」なることは確かでも、モトをとるのに1万年かかる理屈だ(それも毎年必要になるわけではない)。1円がもったいないから1万円を投資しろとはどういう金銭感覚か??

 ちなみに1530億円はあくまでダム事業費であって、それに付帯するかんがい排水事業費1262億円が、別途かかることになっている。これを合計すると――

 成瀬ダム建設事業費+かんがい排水事業費=279,200,000,000円(2792億円)

 およそ2800億円という税金である。このカネはすべて、工事を請け負うゼネコンをはじめとする建設業者やコンサルタント業者の懐に入る仕組みだ。当然ながら農家へは1円たりとも支払われない。むしろ農家は“受益者”となって、2800億円の一部を負担することが決まっている。

 つまり、わずかな補助金を農家へ出すのがもったいないから、ダム建設や水路整備に巨額な税金を注ぎこもうというのが、パンフを撒いた側の主張なのだ。農家の救済は単なるタテマエ。本音は、土建業者・コンサルタント業者の仕事を産み出すことにある。

 これが、成瀬ダム事業の正体だ。

 成瀬ダム建設が農家のためではなく、土建業者のためであることが理解できるだろう。はじめから、農家が負担するポンプ代をすべて肩代わりすればすむ話しなのに、である。1500万円といわず、その10倍くらい補助してもよかろう。併せて、休耕田をため池にしたり、既存ダムを有効活用し、ダムを造らないで農業用水を確保する方策をさぐるのが、とるべき態度ではないのか。

 (つづく)