「成瀬ダムは絶対必要です!」に反論 1

これ、皆瀬川。成瀬川に非ず。

洪水被害を軽減します!!」のウソ

 これはいったい、なんでしょうか。

 雄物川水系・成瀬ダム建設促進期成同盟会と、雄物川中流改修整備促進期成同盟会と、成瀬ダム水道利水対策協議会の3団体が連名で、このほど、秋田県の横手・湯沢・大仙の3市と、東成瀬村、そしておそらく羽後町の全戸に、あるチラシ(パンフレット)を配布した。

 「成瀬ダムは絶対必要です!」

 これはいったい、なんでしょうか。

 メーリングリスト配信されたこのパンフをみたところ、一見して、子どもの絵日記かと思った。書いてる文章も載ってる写真も稚拙でお間抜け、素人が急ごしらえであつらえたような、まさに突っ込みどころだらけのボツ原稿みたいで、あっけにとられてしまった。

 ばかばかしいという思いが先に立ったけれど、放置すべきではない。リーダーに連絡して、すぐにでも反論すべしと思ったが、すでに動き出しているとのこと。で、きのう、会では成瀬ダム建設促進期成同盟会事務局あてに、パンフに対する質問状を出したという。

成瀬ダムパンフに疑問点
 成瀬ダムをストップさせる会(奥州光吉代表)は24日、成瀬ダム建設促進期成同盟会(会長、五十嵐忠悦横手市長)の「成瀬ダムは絶対必要です」としたパンフレットについて、「市報と一緒に配布したのはどういうことか」などとする公開質問状を同期成同盟会事務局に出した。
 質問状は、(1)パンフレットには、団体名があるが、住所・連絡先・発行責任者の氏名がなく、質問や意見があっても問い合わせられない(2)増水時の皆瀬川と思われる写真が使われているが、ここは成瀬川との合流点より上流。成瀬ダムの完成でこの地点の水位は何センチ低減するのか(3)現在の厳しい財政事情のなか、総工費1530億円、県の負担260億円で計画される成瀬ダムは本当に必要なのか、など6項目について疑問点をあげている。
 パンフレットはA4判カラー4ページ。成瀬ダムの役割として治水や農業用水などの利水をあげており、約9万部を作製、横手市内などで配布した。同期成同盟会がこうしたパンフレットを作ったのは初めて。
http://mytown.asahi.com/akita/news.php?k_id=05000000911250002

 リーダーに話したとき、私もブログで突っ込みをいれる旨しゃべったけれど、なぜかうちにも来ているはずのパンフが見つからず、荷物の下敷きになってた広報誌にはさまれてたのを、ようやっと見つけたので、以下に突っ込んでみる。(たぶん3回つづき)

 小見出しはこう。

成瀬ダムの役割
1 洪水の被害を減らします。
2 農業用水として利用されます。
3 水道用水として利用されます。

 では上の123について、パンフの主張を引用しつつ、反論を試みる。

洪水被害を軽減します!!

 で、そのページには、増水した河川がいまにも堤防を越えて、民家に襲いかからんと、不安におののく人々の写真が載っているのである(冒頭の画像)。

 この写真、成瀬川ではありません。皆瀬川です。成瀬川との合流点より上流の、皆瀬川成瀬川の水は一滴も流れていません。したがって成瀬ダムが出来上がっても、この状況には一切、変化はありません。「洪水被害を低減」どころか、水位は1ミリも下がりません。ちなみに皆瀬川には上流に皆瀬・板戸の2ダムがあります。言い換えれば、ダムがあってもこの有り様だということ。

 でも、実態を知らない人が見れば、これは大変だ、一刻も早く成瀬ダムを造らないと、このお宅さんは流されてしまうじゃないか、と思い込んでしまうのだろう。期成同盟会がこの写真を載せた真意は、そこにあるのかもしれない。

 (前略)国土交通省では現在、被害が集中している大仙市の雄物川中流部無堤区間を中心に堤防整備を進めておりますが、上流部の湯沢市・羽後町・横手市や、下流部の人口密集地帯である県都秋田市も含め、水系一貫した河川整備の実施が必要とされています。(後略)

 漠然とした書き方で、どの個所がどの程度、ダムにより救われるか、つまり「被害低減」が見込めるか、まったく触れていない。せっかくだから私が説明しよう。(1981年8月洪水を例にする)

 湯沢市岩崎橋………20センチ
 横手市雄物川橋……16センチ
 秋田市椿川…………7センチ

 湯沢市岩崎橋の20センチなら「水位低減」と言えるかもしれないが、パンフには「被害が集中している」のは「大仙市の雄物川中流部」とある。湯沢市の20センチや横手市の16センチは、さしたる重要な数値ではないのだ。だいたい、岩崎や雄物川橋周辺は「洪水被害が集中」してはいない。そこからさらに下流にあって、「被害が集中している大仙市」がどれだけ「被害を低減」できるのか、期成同盟会は一度、国交省に問い合わせてはいかがか。せいぜい12センチくらいではないか?

 そして、「人口密集地帯」と強調している県都秋田市にもっとも近い椿川(旧雄和町)では、7センチの「被害低減」なのである。7センチですよ? 幼児向け長靴の半分ていど。あってもなくても変わらないレベルなのだ。ちなみにいま耳目をあつめている八ッ場ダムの水位低減効果は最大13センチ(八斗島地点。実際には8センチ程度)である。

 7センチでも効果は効果、それで救われる命も守られる財産もあるかもしれない。では秋田市民は、雄物川の水位をわずか7センチ下げるため、何百億という予算を投じることに賛成なのか。それも世界遺産クラスの自然を破壊してまで(パンフにはもちろん、そんなことは書かれていないが)。普通の感覚なら、たった7センチなら堤防に土嚢を積んだ方が早いと考えるだろうし、あるいは市民全員にゴム長靴を支給して雨に備えた方が割安じゃないかと言いたいところではないのか。

 治水用の「肴沢ダム」は、成瀬川に計画されながら地元の反対にあって撤回を余儀なくされた。その事実を思い起こせば、成瀬ダムに治水目的を持たせること自体、大きな矛盾をはらんでいることに気がつくはずである。

 (つづく)