保坂ルポと産経記事

 元社民党衆議院議員保坂展人さんが、『週刊朝日』で「八ッ場ダムの隠された真実」と題してルポを書いている。保坂さんはもともと東北出身のジャーナリストで、代議士時代は「公共事業チェック議員の会」に所属し、八ッ場ダムなど各地の無駄な公共事業の現場を歩き、それぞれの必要性を問い、欺瞞を炙り出してきた。その人の大型ルポが久々に読めると思って『週刊朝日』を買い込んだ。

 さすが「国会の質問王」の異名を冠したひとだけある。週刊金曜日にちょくちょく記事を書いていたころは、教育問題のライターというイメージがあるけれど、なぜか国会議員になり、その行動力が建設官僚へ切り込む姿勢にも活かされていて、本ルポは参考になるところが多かった。ただ、保坂さんの著作には公共事業関連のものがなかったと記憶しているので、代議士を退いて時間がとれたなら、できることなら八ッ場ダムに限らず、全国各地にいまもしぶとく続いている無駄な公共事業にメスをいれた力作の出版を、これからでも期待したいところである。

 中止が言い渡されて、にわかに持ち上がった八ッ場ダム“騒動”の問題点は、いまでこそかなり周知となったけれど、いま中止したらかえって高くつくといったペテン論理や、1947年のカスリーン台風再来時の効果が実は無しといった唖然とするような事実を挙げる以外に、興味深いのは火山噴火によるダム災害の可能性や、ダム上流にある中和施設維持費の恒久的存在などに言及したところ。くわしいことは本書をお読みいただきたいけれど、長々とつづいた自民党政権によって甘い汁を吸ってきた政治家や官僚・土建業者の内実が示唆されているところに注目した。

 ま、くわしくは『週刊朝日』2009/10/16号をどうぞ。

 ところで、こんなニュース?がある。

【八ツ場ダム】「反対派にだまされてる」と埼玉県知事
 八ツ場(やんば)ダム本体工事の入札中止について埼玉県の上田清司知事は2日、産経新聞の取材に「前原誠司国交相は反対派にだまされている。賢明な方なので、そのうちお分かりになるだろう。県は予算をつける」と述べ、ダム建設推進を改めて強調した。
http://sankei.jp.msn.com/life/environment/091002/env0910021938003-n1.htm

 今月2日の産経新聞のニュースのようなものだが、「前原誠司国交相は反対派にだまされている」という埼玉県の上田清司知事、この3行程度の記事では、どこがどう「だまされている」のかまったくわからないので、できれば具体的に指摘してもらいたい。たとえばダムはあと3割で間違いなく完成するとか、カスリーン台風がいま襲来しても絶大な効果があるとかなどなど、前原大臣がだまされている証明、すなわち「反対派」の主張がウソであることを、ひとつひとつ説明していただきたいものである。

 それにしても、この報道といえなさそうな報道。具体的なことを聞かず、ただ上田知事の証言(というより放言)をそのまんま報じた産経記者とデスクの感覚がすこぶる興味深い(聞いたけど答えられなかったのか、それとも答えたけどトンチンカンな回答だったのか)。

 新聞記者が必要とされる体力と精神力は並大抵ではないと某ブロック紙記者に聞いたことがあるけれど、このくらいの取材・報道なら体力も精神力も必要ない。私みたいなド素人でもできますよ。相手が言いたいこと・報道してもらいたいことを書くのが新聞記者の仕事なのですか? 産経新聞て埼玉県庁の広報誌でしたっけ? それともダム利権業者の太鼓持ち? あるいは天下り官僚の忠実なシモベ?

 僭越ながら申し上げます。相手に言いたくないことを言わせ、報道されたくないことを報道するのが記者の仕事であり、デスクの仕事ではないのですか? こんな記事で読者から購読料もらって、ぶっちゃけ恥ずかしくないですか?