日本のフィンランドですか

 去る7月29日に文部科学省が公表した全国学力調査で、小6では都道府県別でわが郷里・秋田がV2達成。30日付『朝日新聞』は、こう報じている。

 秋田県は今回も小6の全科目で1位だった。前回の結果から、国際調査で上位のフィンランドになぞらえて「日本のフィンランド」と呼ばれ、20都道府県から視察を受けてきた。「01年度から始めた少人数学級や02年度からの全県テストの効果も考えられる」と県教育委員会はみる。「進む方向は間違っていない」と県教委は自信を深めている。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200808300088.html

 日本のフィンランドですか。なんとも響きのよい言葉ですな…。

 記事では、秋田版紙面においてこの結果を次のように分析していた(抄録)。

1.小人数学級の普及。生活環境の変化が大きい小学1・2年、中学1年で学級数を増やして1クラス30人程度にし、他の学年では臨時講師を置いた。その成果として不登校児童生徒は、小中学生1千人当たり8.9人にとどまり、秋田は愛媛県とともに全国最少だった。全国平均は12人。
2.県教委は02年度からは毎年1回、小4から中3の全学年を対象に、全県学力テスト「県学習状況調査」を実施してきた。この結果をもとに課題を浮かび上がらせ、次に活かす試み。「PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクル」と呼ばれる。
3.教師の指導力を強化・サポートする仕組みの充実。教科指導のベテラン「教育専門監」が各地に配置されたり、教員志望の大学生を派遣したり大学教授が小中学校で授業することも。
4.家庭や地域社会と学校との結びつきの強化。保護者に限らず地域の人が自由に授業を見られる「みんなの登校日」参加の推奨。「学級便り」「学年便り」の発行も全国平均を大きく上回る。
http://mytown.asahi.com/akita/news.php?k_id=05000000808300004

 学習塾も家庭教師も首都圏とは比較にならないほどわずかな秋田の子どもたちが、学校や自宅の限られた環境でいっぱいお勉強して、その成果が全国1位というかたちであらわれたのは、とても喜ばしく、うれしいことだ。その影には県教委はじめ関係者たちの試行錯誤と努力があったことは想像に難くない。記事には「長い取り組み実った」と見出しがある。県民のひとりとして、子どもたちにはもちろん、関係者諸氏には拍手を送りたいと思う。

 ただ、止まらない小中学校統廃合の流れが、今後の取り組みの足かせにならないか、懸念を抱いている。

 私の地元の区内には4つの小学校があり、これが近々1校に統合されるそうだ。こうした傾向は全県に及ぶが、母校の名前や校歌が子どもたちに引き継がれなくなる寂しさはもとより、小規模校を減らす政策は、先の4つの「取り組み」と両立しえないのではないか、という不安だ。

 子どもが大勢いれば、競争心を芽生えさせ、やる気を起こさせる原動力になろうが、お勉強の出来具合こそ子どものステータスという考えには賛同できない。かけっこや物知り博士、昆虫集めの上手さ、お喋りの面白さだって、子どもはクラスのヒーローになれるし、その機会はすべての子どもに与えられてしかるべきなのに、勉強以外に秀でても意味はないと教委は思っているのだろうか。

 「長い取り組み実った」――。子どもたちの成果に胸をはるのもいいが、子どもを自分らの手柄に用いるのはほどほどにしてほしい。「お前らがグズだと俺たちが恥をかく」との醜悪な裏面が連想されるからだ。「このザマは何なんだ」「クソ教育委員会が」と自らにふさわしい汚い言葉で教委をののしった某府知事が、戦前戦中ではなくいま現役にあり、支持を広げているのが不気味でならない。

 県教委には、今後とも学力向上に努めていただきたいとは思う。ただし、それ以上に少子化に歯止めをかける有効な手段を模索してほしい。小学校の統廃合を食い止め、むしろ小規模校をふやし、だれもが大人になっても秋田に住んでいたいと思うような郷土づくりにこそ心血を注いでほしいのである。

 それが実現してはじめて、教委も県民もこころから郷里を誇り、胸を張れるのではないかと思う。