『スカイ・クロラ』を観て

 ほとんど諦めていた邦画アニメ『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』、公開終了まであと3日というところへ鑑賞の機会がめぐってきて、今夜観てきたところ。いつもは詳細に映画評をぶちあげるところだけれど、今回はかんたんに感想を書くだけにしよう。

  押井守氏が監督を務めるのはあの『イノセンス』以来4年ぶりだそうな。イノセンスは独特な音楽とCG盛りだくさんの話題作で、ストーリー自体は他愛ないものだったが、名作『うる星やつらビューティフル・ドリーマー』(1984年)を創りあげた監督の最新作だし、またヴェネチア国際映画祭コンペ部門選出作でもあるから、これは見る価値あろう。

 イノセンスそっくりの作風。実写と見まごうほどのCGとデジタル画像を駆使するのはさすがと言うほかないが、これに紙細工っぽいふつーの人物像を重ね合わせるというミスマッチ、どこか違和感がある押井氏のスタイルはどうも定着した模様。音楽もどこかの民俗音楽っぽさは前作と同じ。

 ストーリーは、殺されない限り年をとることも死ぬこともない「キルドレ」と呼ばれる少年少女戦士の、切ない恋と友情の物語り。ありきたりな設定と言えそうだが、メッセージ性はかなり豊富であった。戦争を企業・国家間の見世物とみなし、それに翻弄される戦士たちの深層心理を捉え、大人と同じ人生を生きていながら子どもであり続けざるを得ないキャラたちの苦悩・哀愁が見事に描かれて、戦争のばかばかしさを訴える。どちらが悪くも善くも、どちらに道理があろうと非があろうと、捨て駒としての立場を淡々と貫き通す主人公・函南優一の生き様は静かに反戦を象徴し、こころを打つ。

 ある面では大ヒット街道ばく進中の『崖の上のポニョ』よりも秀作と思えるのだが、おもしろさの点ではさほどの興行成績は見込めまい。一種の問題作だから仕方ないけれど、どうせならもっと政治性を持たせ、タブーに切り込むくらいがよかったかもしれない。愛国心のくだらなさ、軍人の愚劣さを前面に出すとか。草薙水素が会社の上役に抗議に行くだけでは弱い。そこがやや不満か。

 イノセンスはコケオドシ映画かと見くびっていたが、本作『スカイ・クロラ』は、なかなか見ごたえがあった。押井守監督の次回作に期待しよう。

スカイクロラ