虻アブあぶ☆

 NACS−J日本自然保護協会が隔月間で出版している『自然保護』のバックナンバーを読んでいると、2003年9/10月号で、「野生動物とのトラブルを解決する」との特集が組まれていた。

 ニホンザルツキノワグマハシブトガラスのほか、スズメバチセアカゴケグモなどの昆虫、ヤマビルなどなどが挙げられており、自然の中に潜む、そうした危険な生き物とどうやって付き合っていくかを、わかりやすく解説していた。

 森に生きている動植物には確かに人間に害を及ぼす生き物もいるけれど、多くは人間の側が刺激しない限り攻撃してくることはないから、扱いを間違いさえしなければ、どんな生き物も例外なしに、人間と同じ仲間であると認識している。

 それでもときどきは、マムシに噛まれたとかクマに襲われたとかスズメバチに刺されたとかで、死人や怪我人がでることがある。生態系の一員で、かつもっとも知能の高い生き物である人間が、知恵をしぼって、いかに動物との摩擦を避け、周知を徹底し、子どもたちを教育するか、永遠の課題なのである。

 ナマの自然を歩くことで出くわす危険は、もちろんクマやマムシばかりではない。むしろそうした生き物との出会いは幸運なのである。私などはいつも森に入るとき、クマが現れてくれることを願っているのだけれど、フィールド調査においてツキノワグマを見たことは、100回以上入山した中でただの一度もない。ノウサギもゼロ。タヌキ・キツネ・ムササビもゼロ(車を運転中でなら数え切れないくらい目撃してるが)。マムシは数回。ニホンカモシカは10回くらい。ホンドリスは3回くらい。ニホンザル1回。

 どうも相性の合う生き物と合わない生き物があるらしい。まあ普段は野鳥の調査が第一だから、哺乳動物やは虫類は大して期待していないのだが。

 危険なのは、クマなんかよりも崖からの転落である。沢登り時の滑落もそう。生命にかかわるような危険な目に遭うとすれば、そっちの方が断然多い。

 でも本誌「自然保護」では、動物相手に限ったトラブルの避け方をつづっているのだから、私個人が経験した生き物相手の危険でもちょちょっと書いてみよう。

 夏場で怖いのは、アブ。虻。私のところで多いのは、アカウシアブというでっかいアブと、当地でツナギと呼ばれるメジロアブ(標準和名イヨシロオビアブ。ツナギアブとも)というハエみたいなアブだ。

 アカウシアブの容姿はスズメバチにそっくりなので、あれにくっつかれると心得のない人は悲鳴をあげて一目散に逃げ出してしまう。いかにも刺されると痛そうな見た目。水のきれいな渓谷で繁殖するので、夏場の沢登りではやっかいな生き物ではある。

 刺されると確かに、痛い。背中に回ることが多いので、たいてい背中を刺されるのだ。体にとまった時はまったく感じないのだが、するどい口で皮膚を突き破る時に激痛を感じる次第。んでコイツは血をなめなめするのだ。家畜がよく被害にあう。でも単独行動するアブなので、肌の露出を避け、用心していればそうそう刺されることはない。

 もっとウザいのがツナギ。東北の渓谷はメジロアブの名所とかって何かで読んだ記憶があるが、その評判どおり、あいつらは集団でかかってきて、絶え間なくまとわりつくので、防虫スプレーも効果はあまり長続きしない。完全に防ぐには養蜂家がかぶるような防虫網を用いるしかない。

 しかしそんなものをかぶっては邪魔だから、釣りの時でないかぎり、もはや多少の被害はあきらめるしかない。体の周りを50匹くらいのツナギが、わんさと蚊柱状態で移動するのである。

 タオルとか手ではらってもしつこくまとわりつくので、油断すればすぐヂクッ! とやられる。痛い痛い…。

 ただ、慣れというものがあったりする。

 しょっちゅうフィールドに入っていると、アブがやがて気にならなくなるのである。アブが寄ってくるにはくるが、あまり刺されることがなくなる。対して、初めてフィールド入りする人を案内すると、アブ集団はその人を集中的に刺しにいくのである。子どもだったりするともうアブたち、大喜びで。

 免疫なのだろうか。

 夏場に秋田の自然と触れ合いたいなんていう人がときどきいるけれど、アブに刺されるのを覚悟でならぜひ触れ合いに来てください。もう夏も終わりですが。