青森の思い出 ねぶた
青森の大きな楽しみは、夏祭りだった。
東北の夏を彩る夏祭りもすっかり終わった。東北三大祭りといえば青森ねぶた、仙台七夕、そして秋田竿灯。ダントツの動員数を誇るのはねぶただそうだ。6日間で300万人を集めるという。
夏は去り、秋の風が吹きつつある東北。仕事の繁忙期にあってお祭りなんて夢物語だけれど、青森オフィスで従事していたころは、秋田とは涼しさの違う現地で、全国にとどろく火祭り「ねぶた」を、一度は見てみたいと思った。
ねぶたは、地元の人に言わせると、なんとも言えぬ躍動感がたまらないのだという。8月の初旬にあわせて出張の機会を設け、夕暮れを待って、地元の人の助言どおり、バスに乗って開催地へ向かった。
中心部へ向かうバスはすいていたけれど、祭りに参加する「ハネト」と呼ばれる、たすきがけの浴衣姿の女の子が乗り込むと、体中につけたたくさんの鈴が心地よい音をバスの中に響かせるのだった。
バスを降り、団体客が陣取る桟敷席の脇でお祭りの開始を待っていると、日暮れとともにねぶたがやってきた。
巨大な張子に歌舞伎役者の描かれたねぶたは、圧巻であった。その周りを100人以上のハネトたちが取り囲み、「ラッセラーラッセラー! ラッセラッセラッセラー!」の掛け声に合わせて跳ねる。
太鼓と笛の囃子にのせ、ハネトたちの集団が次から次へと現れ、ねぶたを右へ左へ、普段は広い車道も巨大な山車には、動きがままならないほどせまく感じる。
桟敷席へねぶたが急接近し、ぎりぎりでとまる。観客は目前にせまった生のねぶたに拍手と歓声をあげる。
見ていて飽きなかった。躍動感がこちらにも伝染し、ついつい体が跳ねてしまいそうであった。
立ちっぱなしの見物であったが、疲れはほとんど感じなかった。
青森の短い夏は、ねぶたとともに終わる。「ねぶたが終われば、涼しくなるよ」とは現地のひとの言葉。
ねぶた祭りは、3回みた。ときどきテレビに映るねぶたの模様と太鼓の囃子を聞くと、ハネトの浴衣にぶらさがるシャンシャンという涼しげな鈴の音とともに、わが体の奥底へ、あの躍動感がかすかによみがえるのである。