良心の囚人「立川ビラ配り」有罪確定

 先月のことですが、チベット自治区での騒乱を中国政府が鎮めた事件、いわばチベット弾圧事件の続報がらみで、NHKが夜7時のニュースでこのように報じていました。

 「国際的な人権団体・アムネスティ・インターナショナルによりますと……」

 内容としては、チベット自治区チベット人に対する、中国当局による人権抑圧、具体的には強制収用や拷問といった弾圧の実態を、かいつまんで報じたもの。その出所(ソース)というのが、冒頭の「アムネスティ・インターナショナル」であります。

 日本を代表するメディアの公共放送NHK(日本放送協会)の報道部が、全国ニュースのソースに選んだくらいですから、きっとアムネスティ・インターナショナルは、信頼がおける人権団体なのでしょう。アムネスティ・インターナショナルが調査・発表した内容なら、きっと事実にちがいないと、NHK報道部は判断したことになります。その証拠に、もっとも多くの国民が視聴しているであろう夜7時に、このニュースをもってきたのですから。

 アムネスティ・インターナショナルってどういう団体なのかはイマイチわかりませんが、世界でも有数の取材力を誇るNHKともあろうものが、自らでは取材できないために、国家による人権弾圧が叫ばれて世界の耳目を集めるチベット問題で、ニュースソースとして採用せざるをえない底力をもつ人権団体であることは確かなようです。1977年にはノーベル平和賞も受賞したそうで。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB

 さかのぼって2004年3月18日、アムネスティ・インターナショナルは、ある日本人3名を「良心の囚人」に認定しました。

 良心の囚人(りょうしんのしゅうじん)とは、国際的民間人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルが提唱している用語で、非暴力であるが言論や思想、宗教、人種、性などを理由に不当に逮捕された人をいう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%AF%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%9B%9A%E4%BA%BA

 認定されたのは日本では初めて。その人たちは、自衛隊イラク派兵に反対して自衛隊官舎の郵便受けへビラを配布した罪で逮捕され、75日間も拘留された方々です(逮捕の容疑は刑法第130条の住居侵入罪)。
http://www.incl.ne.jp/ktrs/aijapan/2004/0403180.htm

 2006年8月28日の日記でも書きましたが、郵便受けにビラを入れただけ、ただそれだけで逮捕。それも現行犯とかじゃなく、わざわざ令状を取って。官舎の住人に被害届けの書き方を警察が指南し、届けださせての令状。そして2ヶ月半も拘留です。ビラを配ると2ヶ月半もブタ箱入りってわけ。なんだかチベット人を牢獄にぶち込む中国当局と似ていますね。

 自衛隊イラク派兵の是非は、いまでも国論を二分する問題ですが、わが日本の国家警察は、これに反対する人たちを徹底して封じ込める挙に出たわけです。イラク派兵を断固推し進めたい自民・公明両党政権にとって、実に頼りになる、優秀な警察であります。

 反面、イラク派兵反対の反戦団体はもちろん、こころの奥底にて、自衛隊憲法違反だし、ましてや海外派兵なんて二重の違憲では……との疑問をいだく方々にとって国家警察は、なんとも不可思議で恐ろしい存在となります。そのほかピザや住宅などの商業チラシを郵便受けに入れて営業する熱心な労働者にとっても、わが身もヤバイのでは、と戦々恐々とせざるをえないでしょう。

 そんなわけで、全国の反戦活動家とチラシ配りさんを恐怖に落としいれたこの事件、「立川反戦ビラ弾圧事件」は、前述のとおりアムネスティ・インターナショナルによって「良心の囚人」と認定されましたが、そんなことで日本の警察は、この囚人たちを許しはしません。アムネスティだかノーベル賞だかなんだか知らないが、日本では反戦ビラ配ったヤツは逮捕するんだ文句あるか、俺たちの捜査は正当なのだと、断固として起訴しました。

 一審では無罪。控訴審は逆転有罪。きょう、上告審が出されました。

<ビラ配布>有罪確定へ…市民運動に危機感
 11日の最高裁判決で、防衛庁官舎への自衛隊イラク派遣反対ビラ配布が住居侵入罪に当たると認定された。憲法が保障する「表現の自由」を主張してきた被告の市民団体メンバー3人は「司法に失望した」と語った。ビラ配布に対する警察の摘発が相次ぐきっかけになった事件だけに、被告や支援者らは今後の市民運動への影響を危ぶんだ。
 3人は東京・霞が関の司法記者クラブで会見。高田幸美(さちみ)被告(34)は「当たり前のようにやっていた表現活動が、警察の判断一つで犯罪になってしまうことに、最高裁はゴーサインを出した」と厳しい表情で語った。
 大西章寛(のぶひろ)被告(34)は「民主主義が危機に〓(ひん)している」と怒りを吐き出した。「政治弾圧は明白なのに、判決は形式論で切って捨てた。表現の自由を守るため声を上げ続ける」と決意を述べた。
 大洞(おおぼら)俊之被告(50)は「悔しい」と苦渋の表情。事件を受け、神奈川県横須賀市などの基地反対グループが官舎へのビラ配布を控えたことを挙げ、「市民運動が萎縮(いしゅく)してしまっている」と訴えた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080411-00000146-mai-soci

 有罪、罰金確定ですと。

 こんなささいな、犯罪ともいえぬ犯罪を、半ばでっち上げて有罪へもっていき、裁判所(司法)もこれにお墨付きを与える国。それがわが祖国・日本なのです。「市民運動が萎縮してしまっている」と被告のひとりが訴えたそうですが、「市民運動」を「萎縮」させ、封じ込め、根絶やしにするのが、政府自民党の意を受けた警察であり、検察であり、裁判所なのです。目標は中国か北朝鮮ミャンマーか。

 もっとも日本は民主主義国ですから、中国や北朝鮮とはちがい、この方針に意を唱えるだけは自由なのですが、この不可思議かつ奇妙な事件に多くの国民もマスメディアも、さしたる大きな声をあげません。違和感を覚えません。そういえば以前に書いた、中国人監督が撮った映画『靖国 YASUKUNI』も、自民党国会議員の巧妙な工作が功を奏し、上映はもとより、一出演者からカット要求が持ち上がるなど、公開に向けた動きに怪しげな雲行きが。

 自民党とその支持者が理想とする国づくりは、順調であるようです。