最近読んだ本

 書評なんておこがましい行為は差し控えたいところだけど、わざわざ「書評」なんてカテゴリをつくった以上は、それっぽい真似をしないと格好がつかない。

 本の良し悪しを決めるのは著者でも編集者でも書店でもない、読者である。「この本は素晴らしい」とどの著者も編集者も書店も思っているから、それが万人認める事実なら、市中に出回っている本のすべてが「素晴らしい」ことになってしまう。しかし現実はそんなことはありえない。本の中で本当に素晴らしいのはごくわずか。それは決して万人が認める必要はなく、ただひとりの読者が判定すれば「素晴らしい本」である。100人中99人が駄作と決め付けても、ひとりの評価が秀作と認めれば本は成功作である。

 そんなことはともかく、ここ2ヶ月ほどの間に読んだ3冊の本をあげておこう。「俺はこんな本を読んだんだぞ」なんて読書歴をひけらかすのは、あまり好きなことじゃないけれど、過去日記を調べたときに「あ、そういえばこれはこのころに読んだんだな」と振り返るのはなにかと有益でもあろう。

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古代蝦夷の英雄時代 (平凡社ライブラリー)

古代蝦夷の英雄時代 (平凡社ライブラリー)

 『岩手日報』夕刊に「平泉への道」を連載している著者が、8年前に新日本新書から出した同名本を改定したもの。日報連載ものより詳しく、データも豊富。言い換えればちょっと難解。工藤さんは、ことしユネスコ世界文化遺産に登録が期待されている平泉の、奥州藤原氏が築き上げた寺院や、その浄土思想に精通した大家だ。この人の著作はまだまだ読まねばならない。平泉が世界遺産になるかは、個人的には微妙かなと思っているが。

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蝦夷(えみし) (中公新書)

蝦夷(えみし) (中公新書)

 高橋崇さんの、中公新書奥州3作のはしり。本作の次には『蝦夷の末裔―前九年・後三年の役の実像』『奥州藤原氏―平泉の栄華百年』が控えている(2作目は既読)。蝦夷についてはこの先生の本も読まずばならない。多賀城・秋田城・志和城・胆沢城址から出土した木簡・漆紙文書などのわずかな手がかりをもとに、最新の論考と緻密な推理をもって、謎の多いわが祖先にして、祖国の先住民・蝦夷の実像にせまる。

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新聞記者 疋田桂一郎とその仕事 (朝日選書 833)

新聞記者 疋田桂一郎とその仕事 (朝日選書 833)

 戦後『朝日新聞』を代表する記者の仕事と、そのもとで学び、修行した後輩が編んだ選書。かなり面白かった。詳しく書くのはさすがに気が引ける。ジャーナリストを標榜したことが私にもあっただけに、この疋田桂一郎さんという方は「雲の上の上」の存在であろう。特定の分野に詳しくなくても専門家でなくても、社会を揺るがす記事やルポルタージュが書けるということが証明されている。その点だけをみても、私にとって大いに励みになった。……とはいえ、いまの、現実のジャーナリズムは、堕落が激しいのが悲しい…業界内にいるわけでもない私にすら、鼻白むような話が聞こえてくるし。