新風舎、破産へ

  昨夜のテレビニュースでも見たけれど、例の新風舎“倒産”の続報があり、今朝の新聞でも報じられていました。『朝日新聞』サイトからふたつ貼ります。

新風舎、破産手続きへ 支援交渉まとまらず

 再生手続きに入っていた自費出版大手の新風舎(本社・東京都港区)の代理人弁護士は18日、東京地裁に申請した民事再生手続きが廃止されたことを明らかにした。支援先に想定した企業と交渉がまとまらず、資金繰りに行き詰まった。新風舎の関係者は「破産の手続きに入る」と述べている。19日夕方に保全管理人の弁護士が会見する。

 同社は自費出版ブームで急成長したが、営業手法を批判する一部報道などで売り上げが急落したことを理由に、資金不足に陥ったとして、今月7日に民事再生法の適用を申請。この時点の負債額は関連会社を含めて25億円程度だった。

 自費出版契約を結んで書籍を制作中だった人が約1000人おり、こうした著者への対応が課題になる。現在、京都府の1社に、出版刊行の支援を頼んでいるという。新風舎の関係者は「事業の譲渡先を模索する」と話す。また刊行済みの書籍は、インターネット販売の可能性を探る。
http://www.asahi.com/national/update/0118/TKY200801180380.html


新風舎社長が謝罪 出版事業受け皿、京都の企業と交渉

 民事再生手続きの廃止が決定した自費出版大手の新風舎(本社・港区)の保全管理人は19日会見し、同社が破産手続きに入ることを明らかにした。同席した新風舎の松崎義行社長は「著者や関係者の方々に大変ご心配とご迷惑をおかけし、申し訳なく思います」と改めて謝罪した。

 会見では、同社と出版契約を結んでいる約1000人の書籍制作の続行と、既刊本の在庫約600万冊の流通や保管などを最優先課題として、個別事業の受け皿を探し、今月末をめどに今後の計画を作成すると説明した。

 出版契約を結ぶ約1000人のうち、前受け金を支払っているのは約900人、総額は10億円近くにのぼる。出版事業については、京都府の企業と譲渡について交渉している。著作が制作できなかったり、解約したりした場合、前受け金は破産債権に回るが、著者への配当はほとんど見込めないという。

 今月下旬に東京、大阪、福岡で開かれる予定だった著者への説明会は中止され、計画を作り直してから、著者には説明する方針。
http://www.asahi.com/business/update/0119/TKY200801190248.html

 大手出版社・新風舎の「再生」はもはや不可能、破産する以外に手はないということが決定的となったようです。自費出版ブームに乗ってうなぎのぼりに成長した有名版元が、いまはもう見る影もなし。昨夜のニュースで見た社長は、憔悴しきった表情で謝罪の言葉を繰り返すのみ。一代で財を成した大実業家の面影はありませんでした。

 盛者必衰とはいえど、折からの出版不況へ訴訟に発展した著者とのトラブルが重なり、あらたな発注も新規開拓も見込めず、建て直すことができないまでに業績が悪化したのでしょう。

 それにしても、新風舎という出版社の屋台骨の脆さは異様な気がします。「増刷されない」と著者が新風舎を訴えたのは昨年の11月。その前の訴訟だって7月のことだから(http://book.asahi.com/news/TKY200711200404.html)、たかだか半年ていどの間に起こったいざこざで、こうも致命的な打撃を受けるものなのか、ちょっと疑問です。出版社は訴訟沙汰と無縁ではいられませんから、対抗すべく手段がないわけがない。いったい新風舎幹部は、ただ訴えられるにまかせて、なんの対策もとらなかったのでしょうか。

 いまさら言ってもしょうがないけれど、「契約不履行」を理由に訴えられたのであれば、契約した著者に誠意をもってあたれば、すくなくとも訴訟は見送ってくれたのではないでしょうか。訴訟の内容も「営業活動をしてくれない」「増刷してくれない」と、いたってわかりやすい事柄です。新風舎執行部がきっちりとした命令体型を整えて、末端社員に営業の肝いり宣言を行い、増刷すべきは増刷し、社員が出版社の一員としての自覚もって全国の書店に営業活動を展開すればいいだけのこと。ごく簡単に解決できる問題だと思うのですが。

 営業できないならできないで、契約時にしっかり著者へ了解してもらい、「一緒にこの本を売りましょう」と同志的な間柄を強調して信頼関係を築くとか、いくらでも手段はあったはず。私自身おととし、ある本を出版し、信頼できる編集者から「われわれもできるだけ営業しますが、零細企業なので限界がある。○○さんご自身が直接書店に回られるしか…」と言われ、一念発起して、地元における即席の出版社営業マンになって各書店を回りましたが、多くは好意的でありました。地元紙に採りあげられたこともあるけれど。

 やろうと思えばできること、出版社としてやるべきこと――それをやらなかったから、新風舎は潰れたのでしょう。

 契約を結んだ著者1000人のうち、お金を支払ったのは900人。総額10億円ですか。そのほぼ全額は「破産債権に回るが、著者への配当はほとんど見込めない」とは、なんともむごい話です。

 他人ごとのようにこのニュースを見ていたけれど、他人ごとではすまされない。私もまだまだ出版意欲はあるから。