赤っ恥をかいた“霊能者”

　テレビのオカルト番組の他愛なさは、それをショー（見世物）と見るか、ドキュメントと見るかで判別できるでしょう。いわゆる霊媒師が、タレントの死んだ家族をこの世に招き寄せ、自身に憑依させて、この世の遺族と会話させるという“イベント”がひところ闊歩し、同じく霊能者がタレントを霊視して、“啓示”のごときを行う、なんてやつ。

　有名どころでは宜保愛子という女性霊能者がいて、この方は故人ですが、健在だったころはよくテレビでタレントさんを霊視し、当人ですら知りえない過去や秘密といった、驚嘆すべき事実を掘り当てるなど、演出のうまさもさることながら、番組を見ながら私などは、霊界ってあるんだ、この宜保さんて人は超一流の霊能者なんだ、と感動さえしたものでした。

　前後して、大槻義彦さんという早稲田大学の教授が、この種の番組のあり方に異を唱え、けっこうセンセーショナルに取り上げられるようになりました。人魂は単なる自然現象だとか、金縛りはレム睡眠が引き起こす体内リズムの現象に過ぎないとか、スプーン曲げはただの手品だと自ら実演して暴き、ＵＦＯの存在さえも否定し、さきの宜保さんの霊視など、スタッフの事前調査で仕込んだヤラセだ、と雑誌類で真っ向から否定していたものでした。これに怒った宜保さんが「生霊をとばしてやる」などと言ったか言わないか、なんて記事を読んだ記憶もあります。
　野暮な学者だなーと私などは思ったものですが、冷静に考えてみると、私自身、お化けとか幽霊は見たことがありません（親父はしょっちゅう見ているけれど）。あまり見たいとも思わないのですが、では見に行こうと思って、暗がりや墓場や、いわゆる心霊ゾーンに行けば見られるかというとそうでもない。全国的に有名な心霊スポットを、私はこれまで昼夜問わず1000回くらい通りましたが、それっぽい現象に遭遇したことは一度もありません。たぶんこれからもないでしょう。

　あの世のだれかと交信することが出来たら、怖いけれど素敵でもあります。死んだ祖母が夢に出たことはあるけれど、それは心霊体験とはいえますまい。でも科学では説明できない超自然現象があるとしたら、いの一番に挙げられるのが霊の存在ということになるでしょう。まあ、霊の存在について私は2006年3月10日の日記にも書きましたから、これ以上は触れません。

　宜保さんは５年前に亡くなったし、その種類のテレビ番組はもう見なくなったから、心霊分野に、いまどんな専門家がいるのか知りませんが、たまたまヤフーニュースでこんなのを見かけました。

江原啓之の「霊視」に矛盾霊視した父はご存命だった
　「スピリチュアル・カウンセラー」として今やバラエティ番組の顔となっている江原啓之氏（43）の「霊視」に対して週刊文春が矛盾点を指摘した。
　ことの発端は先月の28日放送の「オーラの泉」（テレビ朝日系列）での出来事。宝塚出身の女優・檀れい（36）がこの日ゲスト出演し、江原氏は彼女の亡くなった父親をいつも通り霊視し、「お父さんは宝塚音楽学校の受験を理解し、見守っていた」と語った。
　しかし週刊文春の取材によると、この「亡くなった父」とは母親が再婚した男性であり、檀の学生時代には会っていないとのこと。一方学生時代に共に暮らしていた「実父」は現在も生きており、町役場で課長を務めているとの事実が判明した。
　江原氏に対し文春側が「一体誰を『霊視』していたのか」という質問をすると、「貴誌の編集方針に疑問があります。つきましては、貴誌の取材協力依頼は応じかねます」との返答のみとのこと。週刊文春ではこれに対し「いつまでこんなインチキを続けるのか」とコメントしている。
　（後略）
http://netallica.yahoo.co.jp/news/22877

　簡単に言えば、心霊番組にありがちな「インチキ」がバレたのでしょう。これに対し江原さんとやらが「貴誌の編集方針に疑問があります」と答えたのは、「野暮な取材はしてくれるな」と言いたいのだと思います。心霊番組はもともとヤラセ。視聴者ウケのする見世物、お祭り、ショーなんだから、ネタになってくれたタレントの身辺調査なんて、いちいち水を差すような真似はやめてもらいたい、ということでしょう。

　とはいえ、江原さんはこれ以上ないほどの大恥をかいたことになります。「『スピリチュアル・カウンセラー』として今やバラエティ番組の顔となっている江原啓之氏」が赤っ恥をかいたわけは、まあスタッフの事前調査が甘かったから。おそらく番組制作は下請け孫請けの外注でしょうが、スタッフは江原さんに怒られるでしょうね、「俺に恥かかせるな！」と。

　霊か。

　＊

　追記。コメントのなつみさんの指摘でちょい調べたら、記事の「先月の28日放送の…」は2006年12月20日放送の間違いらしい。アメーバニュースのミスに引用したヤフーも見逃したらしい。これはこれでネタになりそうなので訂正せず、追記にとどめておくだけにします。なつみさんありがとうございました。ヤフーはなにやってるんだか。