日本に冤罪は健在

 死刑を制度として機能させている国は、64か国。死刑を廃止または事実上廃止している国は、133か国にのぼるそうです(アムネスティ・インターナショナルのサイトからhttp://homepage2.nifty.com/shihai/shiryou/facts&figures.html

 そのリストが以下の通り。
死刑廃止国と存置国http://homepage2.nifty.com/shihai/shiryou/abolitions&retentions.html

 ざっと見ると、死刑を廃止している国々は欧州に多く、存続させている国はアジアとアラブ諸国に多いようです。アメリカも、州によっては廃止しているところがあるものの、国家として死刑を廃止してはいません。

 さきのURLから各国の処刑者数を抜粋してみます(2006年の場合)。

 中国   ………1010人
 イラン   ………177人
 パキスタン ………82人
 イラク   ………65人
 スーダン  ………65人
 アメリカ  ………53人

 こうして比較すると、中国の処刑者数が群を抜いています。人口が多いから犯罪者も多いというのとは別次元だと思うけれど。インドなども人口の多い死刑制度存在国ですが、処刑者数はURLにはありませんから。

 ヨーロッパ諸国は死刑を完全に廃止しているところがほとんど。その経緯や背景にはいろいろあって、処刑後に冤罪が判明したことがきっかけで死刑を廃止したイギリスや、政治犯ユダヤ人を処刑しまくったファシズム政権を倒したのを機に死刑を廃止したドイツ・イタリア、政権交代によって国民の反対を押し切って死刑を廃止したフランスなどがあります。

 死刑制度の是非は古くて新しいテーマですが、わが祖国日本においては、死刑制度はしっかり、存在してあり、機能しております。

 仮に日本が、死刑廃止のプロセスをヨーロッパの例に倣うとすれば、こんな仮説が出来上がります。思いつくままに書いてみましょう。

帝銀事件の死刑囚が処刑されていれば、あるいは冤罪が発覚して一大事になっていたかもしれません(しかし死刑囚は再審請求のただ中に獄死)。

●戦前・戦中の日本は天皇を中心とした明白なファシズム国家で、治安維持法のもとで何人もが処刑・獄死しました(でもその体制が倒されることはなく、基本的に自民党政権が受け継いでいる)。

政権交代も、真の意味で実現できたとは言えない。

 そんなわけでニッポンは、れっきとした死刑存置国であります。ただ、処刑された死刑囚は、年間0〜数人程度で推移しています。

 さて、私は死刑制度に反対する者です。べつに活動家ではないけれど。死刑に反対する理由は単純明快、冤罪だったら取り返しがつかないから。

 優秀な日本の警察が、無実の人を逮捕し、拘束し、起訴し、裁判にかけ、罰するわけがないと思うでしょうが、21世紀の現在でも、起きているんですね。

 警察はその気にさえなれば、どんな微罪でも適用して「容疑者」をこしらえます。政権与党を批判するビラを配ったり、イラク戦争に反対するビラを配れば逮捕するのです。170人も動員して半年かけて尾行して、それだけ労力と税金を投じて得た獲物は、ビラ配りの一名。自由民主党にとっては、なんとも優秀で頼りになる警察です。

 さすがに検察や裁判所では、こういった微罪に起訴ないし有罪を突きつけるのはためらうようですが、完全な冤罪に、警察が逮捕し、検察が起訴し、裁判所が実刑を課すという凄まじい大事件が起きました。全文引用掲載します。

再審判決 強姦逮捕から5年半ぶり無罪確定 富山

 富山県警に強姦(ごうかん)などの容疑で逮捕され、服役後に冤罪(えんざい)と分かった柳原浩さん(40)の再審判決公判が10日、富山地裁高岡支部であった。藤田敏裁判長は「被告人が各犯行の犯人でないことは明らか」として、求刑通り無罪を言い渡した。検察は同日、上訴権を放棄し、逮捕から5年半ぶりに無罪が確定した。柳原さんは、拘置・服役期間の刑事補償を12月にも同支部に請求した後、国と県を相手取って国家賠償請求訴訟を起こす方針。

 藤田裁判長は、大津英一被告(52)=公判中=の自白、現場の足跡やDNA鑑定のほか、自宅から電話をかけていた柳原さんの犯行時間帯のアリバイを挙げ、「真犯人は大津被告と認められ、(当時の柳原さんの)自白には信用性がない」と判決理由を述べた。警察・検察の捜査手法については言及せず、最後に柳原さんに対し、「失った時間はどうにもできませんが、これからの人生が充実したものになることを心から願います」と付言した。

 弁護団は判決までに2度、取調官の証人尋問を求めたが、藤田裁判長は「必要ない」としていずれも却下した。柳原さんは閉廷後の記者会見で「真実が闇に消えたままで無罪と言われても、何もうれしくない」と悔しさをにじませた。小林大介・主任弁護士は「大変残念な勝訴。再審の枠組みを突き崩せず、冤罪の真相が究明できなかった」と述べた。

 この冤罪事件を巡っては、最高検が8月、問題点や再発防止策を報告書にまとめ、「足跡の照合など証拠の吟味が不十分なまま起訴した」と指摘。日本弁護士連合会も独自の調査に乗り出す。

 大津被告は強姦罪など14件の罪で起訴されて懲役30年が求刑されており、11月14日に同支部で判決が言い渡される。

 ▽佐野仁志・富山地検次席検事の話 改めてご本人をはじめ、ご家族、被害者など関係各方面に多大な迷惑をおかけしたことを心からおわびします。本件を肝に銘じ、今後基本に忠実な捜査をさらに徹底し、再発防止に努めます。

 ▽吉田光雄・富山県警本部長の話 無罪判決が決定したことで、改めて柳原浩様に対し、心からおわび申し上げます。今回の事態を重く受け止め、再発防止に努めているところであり、引き続き、この徹底を図ってまいりたい。

 ◇「納得いかない」柳原さん
 「納得いかない」。富山地裁高岡支部で10日あった富山冤罪事件の判決公判。逮捕から5年半ぶりに無罪判決を手にした柳原浩さん(40)は、ぶぜんとした表情を浮かべた。再審には、自らが「容疑者」「犯人」とされた理由の解明こそを望んだ。この日の法廷で得たものは、わずか10分で読み上げられた判決と、心に響かない藤田敏裁判長の付言だけ。柳原さんの声は、またも司法に届かなかった。

 午後3時。紺のスーツ姿で入廷した柳原さんは被告席に着き、緊張をほぐすように肩を1度回した。裁判長が読み上げる判決を、じっと座って聴き入った。判決は、不適切な捜査には触れず、誤審への謝罪もなかった

 判決後、柳原さんと弁護団は、富山市の県弁護士会館で記者会見した。裁判長が「無実であるのに服役し誠にお気の毒に思う」などと、人ごとのように付け加えた言葉に対し、柳原さんは「当時、いいかげんな裁判をしなければ、こういうことにはならなかった」と、怒りをあらわにした。

 ただ、取調官の証人申請が2度にわたり却下されていたことから「裁判官には期待していなかった」との本音も漏らした。

 弁護団は「検察が請求して行われる現行の再審では、事実上、冤罪の原因究明のための活動が何もできなかった」と、悔しさをにじませた。

 ★富山冤罪事件 富山県氷見市で02年1、3月に強姦と同未遂事件が発生。タクシー運転手だった柳原浩さんが逮捕、起訴されて懲役3年の実刑判決を受け、約2年1カ月服役した。仮出所後の06年11月、別の強姦未遂容疑などで逮捕された松江市の大津英一被告(52)=公判中=が氷見市の2事件を自供。「真犯人」の有罪確定前に、検察側が再審請求を行う異例の展開をたどった。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071011-00000004-maip-soci

 記者の名前は消しました。見出し以外で太字にしたところ。「藤田裁判長は警察・検察の捜査手法については言及せず」「弁護団は判決までに2度、取調官の証人尋問を求めたが、藤田裁判長は「必要ない」としていずれも却下した」「判決は、不適切な捜査には触れず、誤審への謝罪もなかった

 検察と被告双方の言い分を公平に聞き、罪を裁く立場にいる裁判官でさえ、このありさまなのです。人間だから誤審もまったくないとはいえないでしょうが、だからこそ過ちを認め、教訓とし、繰り返さぬ決意を示さねばならない。それが「『無実であるのに服役し誠にお気の毒に思う』などと、人ごとのように付け加えた言葉」で済ませる。この藤田敏という富山地方裁判所高岡支部の法曹人の名前と姿勢は、後世まで語り継がなければならないでしょう。藤田裁判長は貧乏くじを引いたともいえますが、ある意味裁判所の権威の失地回復のチャンスにもできようというのに。

 重罪を犯した被告を死刑にしろ、という大合唱が起こります。光市事件なんかそのいい例です。光市事件が冤罪であるはずがないとさすがの私も思いますが、死刑執行を望む多くの日本人の期待に応えるべく警察・検察・裁判所が健在であることを、この冤罪事件は示したといえるでしょう。