支配する側・された側

 久間前防衛大臣の「原爆投下しょうがない」発言について、きょうの『朝日新聞』(統合版)投書欄「声」に「無差別の殺戮 正当化許せぬ」と題して、見過ごせない投稿が載っていました。コピペはできないので趣旨を。

 「原爆投下すればソ連の参戦を防げ、北海道を占領されずにすむ」という前大臣の発言要旨だが、史実はこう。ソ連の参戦は1945年2月のヤルタ会談ですでに決まっており、ソ連は原爆投下直後の8月9日に参戦し、終戦後も戦闘をつづけていた。私(投稿者)の父は樺太(サハリン)で19日まで対ソ連戦に従軍した。
 ソ連は、千島列島(クリル諸島)と北海道の北半分を占有させよと米国に求めたが、米国は千島列島は認めたものの、北海道の占領は拒否。結局、北方領土が占領される9月5日ころまで、ソ連との戦闘がつづいたという。
 米ソの思惑が交錯し、原爆投下はソ連の参戦を「止める」どころか「早めた」。「しょうがない」発言は、原爆投下を正当化するアメリカへの追随であろう。

 うっかりしていました。皇国ニッポンは、中国・アメリカ・イギリス王国etcのみならず、ソ連ともしっかり戦争していたんだっけ。それも彼らは、原爆投下の混乱に乗じて侵攻して来たんでした。

 その日時が、長崎へ原爆が落とされた8月9日。時刻は投書からはうかがえないけれど、ソ連が、広島へ一発目の原爆が落とされて「連合国軍の勝利を確信し」(投書)、3日後に長崎へ2発目が投下されたのを確認してから日本に宣戦布告したのだとすれば、「長崎に落とせば日本も降参するだろう、そうしたらソ連の参戦を止められる」との久間前大臣の言うことは、事実とはまったくあべこべになってしまいます。アメリカが原爆を投下したからソ連が割り込んできて、北海道は占領されなかったものの北方領土は獲られてしまったのだから。

 「原爆投下はソ連の参戦を止めるどころか早めた」――。ソ連に北海道を占領されなくてよかったとは思いますが、仮に占領されていればどうなっていたか。沖縄はアメリカに占領されてしまいましたが、占領されていなければどうなっていたか。

 いずれ結果論の架空談義でしかありません。ちなみにソ連の統治下に置かれてしまった北方領土――歯舞諸島色丹島国後島択捉島が、沖縄本島みたく軍事基地や軍事演習でグチャグチャにされたとか、自然破壊でズタズタにされたという事実はないようです。

 侵略された側の気持ち。支配された側の気持ち。わが郷里・東北秋田は、蝦夷の地を1000年も前に渡来・大和朝廷軍に占領されてしまいました。1万年以上もつづいた蝦夷縄文文化は、すべて考古学上の骨董扱い。生きているモノはいま一ミリも残っていません。遠い奥羽の山なみを見て、はるかな祖先も、あの山々と空を見上げたのだろうか、と思いを馳せるのみです。