原爆投下を振り返る被爆地の2政治家

 久間章生防衛大臣の「原爆投下しょうがない」報道の見出しをみて、ある一文を思い出した。本島等・元長崎市長の言葉だ。以下に紹介する。

 しかし、よく考えてみると、ほんとうの意味で、私は戦争の悲惨さを知らなかった。

 あの太平洋戦争。東京大空襲沖縄戦、広島・長崎の原爆。韓国・朝鮮の併合。中国、東南アジアの侵略。内外二千数百万人の死。

 いま、千田夏光著『天皇勅語と昭和史』の百五十余の詔勅を読む。感無量。中国の関東軍七三一(細菌)部隊の存在。シンガポールでさえ虐殺二万人と言われる。彼等は原爆を「神の救い」と受け取った事実をはじめて知った。

 ……

 ただ日本人を戦争の被害者とだけ見てはならない。加害者であったから、被害を受けた。当時の権力者によって、日本人は加害と被害の両面を担わされた。
 (『長崎市長のことば』岩波ブックレット146)

 これは1989年発行のブックレットで、本島氏が長崎市長に在任だったころに発行された。発行の経緯は省くが、発行から一ヶ月経たないうちに、本島市長は国粋右翼に左胸を背後から至近距離で銃撃される。長崎市議会での「天皇に戦争責任はあると思う」の答弁がきっかけの、暗殺未遂事件である。

 久間防衛相は長崎2区選出の代議士。ことし1月31日の拙日記でも触れたように、久間大臣は「ブッシュ大統領イラク侵攻の判断は間違い」などの発言で、日本の閣僚のなかでは一家言的というか、本来の主権国家の閣僚たる発言を以前より繰り返していて、アメリカの従属国ニッポンにおいてはどこか特異な閣僚であり、個人的には私も評価したことがある。
http://d.hatena.ne.jp/binzui/20070131

 もっともその後の腰砕けぶりに、「やっぱり久間サンもその程度だったのね」と当人の実像を知るとともに、アメリカの属国ニッポンの閣僚として完成されつつあるな、と認識させられたのだが(2月23日の日記)。

 そのなりきり反骨閣僚・久間サンが「原爆投下しょうがない」と語った真意は報道を読むまでわからなかったが、冒頭に貼った本島市長の述懐を即座に思い出したところである。被爆地の市長・本島氏も18年前に「原爆はしょうがなかった」ともとれる意味のことを述べているからだ。その理由が、アジア侵略の代償として、と(ちなみに昭和天皇も「原爆投下やむなし」と記者会見で語っている。真意はこれまたよくわからないが)。久間サンの真意もそうなのかな?

 で、報道を見ると――。

 日本が戦後、ドイツのように東西が壁で仕切られずに済んだのは、ソ連の侵略がなかったからだ。米国は戦争に勝つと分かっていた。ところが日本がなかなかしぶとい。しぶといとソ連も出てくる可能性がある。ソ連とベルリンを分けたみたいになりかねない、ということから、日本が負けると分かっているのに、あえて原爆を広島と長崎に落とした。8月9日に長崎に落とした。長崎に落とせば日本も降参するだろう、そうしたらソ連の参戦を止められるということだった。
http://www.asahi.com/politics/update/0630/TKY200706300263.html?ref=rss

 ようするに「原爆は、ソ連の侵攻を食い止めるためだったのだから、しょうがない」とのこと。

 ははあ、あの原爆は、いわばソ連へのけん制だったということですか。けん制したのはアメリカ合州国アメリカがソ連に対し、軍拡競争で優位に立っていることを見せ付けるため、広島・長崎へ原爆を投下した。日本がソ連に北海道を支配されなかったのは、アメリカが落とした二発の原爆のおかげという面があるから「しょうがない」のだと。

 ソ連へのけん制なら原爆は広島への一発だけで充分じゃないかなとも思えるが、いずれアジア諸国を侵略したことの天罰だった、という本島氏の見方とはまったく違うのであった。

 アメリカのイラク侵略を「間違い」と語った反骨漢も、原爆投下におけるアメリカの立場を説くことで、アメリカへ忠誠を示すまでに堕落なさった。こういう閣僚のおかげで、わが祖国はアメリカの属国をさらに不動にするのです。

 *

 翌2日の追記。拙文に趣旨が似ている?ニュースを見かけたので、『毎日新聞』サイトから貼っておこう。ただし引用は2節だけ。

 一方で、79〜95年に長崎市長を務めた本島さんは「今の時期になぜ、こういう発言をしたのか分からない」と疑問を呈したうえで、「被爆地では今も被害だけを強調する傾向がある。原因があるから結果がある。日本が戦争を始めなければ原爆投下はなかった」と話す。本島さんは日本の加害を問い続け、市長落選後は「原爆投下は仕方なかった」と繰り返してきた。

 原爆投下を巡っては、昭和天皇が75年10月の記者会見で広島への投下について「遺憾に思っている。戦争中のことなので、広島市民には気の毒なことであるが、やむを得なかった」と発言。本島さんは「当然の認識で僕も同感。久間さんの発言も同じで、原爆の肯定だ、容認だと批判するのはおかしい。天皇陛下も原爆容認論だと批判するのか」とも指摘した。
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20070701k0000m010128000c.html