クマタカのこと

 多忙なためめっきり行かなくなったけれど,私のフィールドにもクマタカがいて,運がよければ,あの勇姿に見とれることができた。

 クマタカは大きさがトビとほぼ同じだが,尾羽の形と翼の後縁部が膨らんでいる特徴から,比較的容易に判別できる。ブナ原生林の上空を低く悠々と飛んでいる姿は,いつも圧巻だ。

 四季をとおしてあまり移動しないので,その周辺を縄張りにしているクマタカに名をつけて,きょうは見られた,きょうは風がないからいなかった,と野帳(フィールド=ノート)にメモ。見られた日はうれしかった。ペアで飛んでいたり,鳴き声を聴けた日なんかとくに。

 ちょうどいまごろが,クマタカなど大型猛禽類の観察に適している。とくに秋田は雪原からの日光の照り返しの効果で,クマタカイヌワシの翼の裏側が地上からよく見えるのだ。

 Nの件でH村のフィールドにいたとき,丘の影から不意にクマタカが現れ,双眼鏡をつかうまでもなく翼の斑紋を肉眼でじっくり観察できたときはもう最高だった。ある尊敬する学者に聞いた話では,クマタカはひとの気配に驚いたノウサギやヤマドリが飛び出してくるのを期待して,わざわざ人のいる上空を舞うことがあるという。ちょうどそんな条件だったのだろう。もう10年近く前の話だけれど。

 大空を悠々と舞うクマタカ絶滅危惧種だ。イヌワシとともに生態系の頂点に立ち,わが祖国・日本の自然をつかさどる精霊の化身。

 それがインフルエンザか。熊本で保護されたのち死んだクマタカから,鳥インフルエンザが検出されたという。以前,イヌワシの体内に濃縮されたダイオキシンが検出,という報道だかがあったけれど,よりによって絶滅が心配されている野鳥がインフルエンザに冒されていたとは。