イソヒヨドリの声にしびれたこと

大船渡にオフィスがあったころ,泊まっていたオフィス内の宿舎にて,早朝,聞いたことのない野鳥の声で目が覚めた。

すばらしい声だった。山野で小鳥のさえずりを聴きなれて,たいていの種類の野鳥の声は判別できる自信があるが,その声は初耳だった。

声の正体を確かめたい衝動にかられ,眠い目をこすって双眼鏡と野帳(フィールド=ノート)を携えて外へ出て,声のする方角に目をやった。

声の主は電信柱に留まっていたのですぐわかった。

双眼鏡を向けるが,明け方の曇り空で体色はいまひとつ不鮮明だったけれど,イソヒヨドリであることがわかった。海岸にすむ中型の野鳥だ。初めてみた。

声が,なんともいえぬまろやかな,まるで木管楽器を奏でるよう。脳天にジンジンと響き渡る。不定なリズムながら瞼が熱くなるほど。私から30メートルほどの近距離で,静かな朝を謳っている。

双眼鏡を通さず肉眼で見ても,くちばしが開いているのがわかる。私は対象を食い入るように眺めた。

「こんなさえずりを聞かせる鳥もいたんだ…」

ある家庭をお邪魔したとき,飼い鳥ベニススメの声の美しさに驚き,声のすばらしさを称えたことがあったが,所詮飼い鳥。自然の中で,ある季節のみ,おおらかに高らかにのびのびとさえずる小鳥の声に勝るものはない,と心の中で思った。

それがいま目の前に。ため息しか出なかった。

イソヒヨドリは,沿岸部ではなんら珍しくない野鳥だが,山深い里に住む私にとってはめったにお目にかかれない鳥だ。山野の鳥でああいうまろやかな声を聴かせるのはクロツグミがやや近いが,イソヒヨドリには負けそう。

それ以来,大船渡など海沿いの街へいくことがあれば,潮騒にまじって謳うイソヒヨドリの声に耳を澄ますようになった。

沖縄にて,死んだイソヒヨドリに「生き返って」と寄り添う仲間の話題があった。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-21530-storytopic-1.html