北朝鮮を擁護してみると

 北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)政府がきょう未明に6発のミサイルを発射し,いずれも日本海に着弾したというニュースでテレビは朝からもちきり。

 この報道に日本中大騒ぎ――とはいかないまでも,テレビの映像には日本政府首脳をはじめ,訪米中の小泉サン,中国を訪問している小沢サンに,各コメンテーターさんが北朝鮮を集中的に批判・非難し,いずれも深刻かつ不安そうな表情で推移を見定めていらっしゃるようです。

 んでネットでは,紹介するまでもなく北朝鮮怖い・危険だ・やりかえせ・朝鮮人憎し――みたいな論調が時間を追うごとに高まっていますね。まあいつもの日本的風景ですから驚くに値しないし,数日で収まるのもわかっている。

 しかし言わずもがなヘソ曲がりの私は,ここいらで一発,北朝鮮を擁護してみようかなと思うのですが,すぐに資料が集まるわけもないし,激流に逆らう危険性はフィールド調査を例に出すまでもなく,下手すりゃ命を取られかねません。まあこんな一ブログで北朝鮮擁護論をかましたところで,せいぜい反日分子・気狂い扱いされる程度なんでしょうけれど。

 となれば,いつものバランス的一文をしたためてみましょうか。先月下旬,北朝鮮国内にてテポドン発射準備とみられる行動がアメリカの軍事衛生で捉えられ,日本国内に緊張が走りましたっけね。これをうけて訪米前の小泉サンがこうコメントして北朝鮮に“自制”を呼びかけました。

 「北朝鮮がミサイルを発射したところで,得るものはなにもない」

 同感です。ミサイル試発射なんてやらないほうがずっとマシ。ただし北朝鮮に限らずね。

 日本だってアメリカだって中国だってブラジルだってドイツだって,ミサイル発射にて「得るもの」の存在する国など,どこにもありませんので。

 ミサイル発射ばかりか,あらゆる軍事演習には「得るもの」がないと私は断言しますが,日本における自衛隊アメリカ軍の軍事的行動に対しては,小泉サンは「得るもの」があると位置付けているようです。実際は迷惑しているんですがね,私自身も。

 ひとつ例を挙げましょう。宮城県山形県にまたがる舟形山(1500M)は素晴らしい自然の宝庫でした。宮城県側には自衛隊の大城寺ヶ原実弾演習場があるのですが,ある事件が発端になって,10年ほど前からここにアメリカ軍も演習に来るようになり,ふもとの登山口へ通じる道が閉鎖され,宿泊施設も閉じられたため,登山をかねてフィールド調査の準備をしていた私は,やむなく中止を余儀なくされたのです。

 この件の経緯を書くと長くなるのでこのくらいにして,では本題に入りますか,バランスをとるためのね。

 「北朝鮮がミサイルを発射したところで,得るものはなにもない」と語った小泉サンですが,実のところ「得るもの」が,わが日本政府&アメリカ政府には,けっこうあったりします(「国民」にはない)。

 北朝鮮国内にてミサイル発射の準備ととれる動きが見られ,これが報道されたのは先月下旬。ちょうどそのころから,いわゆる「米軍再編」にからみ,在日アメリカ軍の削減・移設により,国内では興味深い動きがあったのです。

 場所はどこだと思います? 沖縄? ちがいますちがいます。

 アメリカ軍・沖縄の海兵隊8000人と,そのご家族がグアムへ移転するための費用のうち,半分以上(約60億ドル)を,私も含めた日本国民が負担するという馬鹿げた話もさることながら,この陰で東北・青森にて,なんとも刺激的な「米軍再編」がなされていたのですよね。

 それは,ふたつあります。

 つがる市(旧車力村)での高性能レーダー配備と,アメリカ軍三沢基地への地対空ミサイル配備です。

 まず高性能レーダー配備。
http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/xbandradar/

 アメリカ軍の移動式早期警戒レーダー「Xバンド・レーダー」がつがる市に運び込まれたのは6月23日未明。北朝鮮のミサイル発射準備行動とほぼ一致しますが,なんともいいタイミングだと思いませんか?

 そう,アメリカは北朝鮮の極秘裏の軍事行動を,早くに察知していたのですね(先のリンクを参考に)。

 北朝鮮のきな臭い動きにあわせて,これを日本で報道させ,沖縄でのアメリカ軍再編の動きに国民の目が向いている隙に,機材を運んでしまおうというわけ。つまり半ばどさくさまぎれ。

 もちろんこれは日米両政府の連携があってこそ。国民には知らせず,北朝鮮の動きをこれ幸いと,反対の声もないような辺境地へグッドタイミングでもって,世界でも稀な超高性能レーダーをあっという間に配備しちゃった(運用は12月からだが運んでしまえばOK)。

 なぜつがる市なのかというと,北朝鮮からアメリカ本土へ向けてもしテポドンが発射されれば,上空を通過するのがつがる市だからなのです。ミサイルが飛んでくればただちに探知・追尾するのにうってつけの場所なのですね。

 北朝鮮がミサイルを発射することで,アメリカ政府とその属国・わが日本は,こうして「得るもの」をゲットしたわけです。

 もうひとつはアメリカ軍三沢基地への地対空ミサイル配備です。その名前はパトリオットPAC−3(パック=スリー)。

 私も「ホントかな」と思ったのですが,日本国内の在日アメリカ軍基地に地対空ミサイルが配備された例は,いままでなかったのだそうです。

 その記念すべき初配備が,沖縄でなく横須賀でもなく,青森の三沢。その理由が,先のレーダー基地を防衛するため。

 これがなにを意味するかわかりますかな?

 日本国民を守るための地対空ミサイルではないんですよ?

 アメリカ自国を守るレーダー基地を守るためのミサイルなんですねー,これが。

 いやはやアメリカの属国ニッポン,面目躍如ですね。ここまでコケにされてもアメリカの属国をやめることはありえないのでしょう(「韓国や中国の属国でいるよりはマシ」なんていう短絡思考の方がいますが,アメリカの属国をやめれば何故に中国・韓国の属国になるのかわけわからん。そもそもどこかの国の属国でいる現状が,異常だと気づく日が来るまで気長に待ちましょう)。

 まあこうして,アメリカ政府は首尾上々,“耳”と“壁”を確保し,小泉サンをはじめとする日本政府首脳・政府与党はブッシュ大統領に「おりこうさんだね」と頭をなでられておしまい。両国とも北朝鮮のおかげで「得るもの」にありつきましたとさ。

 ついでにもういっこ書いておきましょう。

 アメリカ軍三沢基地にもうひとつ,過去に例をみない爆弾が配備されたのです。その名もバンカー・バスター。

 バンカー・バスターってどんな爆弾だと思います?

 7メートルの厚さの強化コンクリートをも貫く,地下塹壕を破壊する目的でつくられた爆弾です。
http://www.worldtimes.co.jp/word/030403.html

 そんな物騒な爆弾を三沢に持ってきた理由ですが,まあ北朝鮮の指導者を殺すためなんでしょうね。

 ただもし仮に,バンカー・バスターを搭載した爆撃戦闘機が離陸後にエンジントラブルを起こし,制御不能におちいったとしたら――。

 三沢基地の目と鼻の先には,ほら,アレがあるじゃありませんか。

 青森県六ヶ所村

 日本原燃の「使用済み核燃料再処理工場」ですね。

 そこへバンカー・バスターもろとも戦闘機が突っ込んだら……。

 日本オワタ。

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この日記を書くにあたって参考にした資料(上のリンク以外で)
●『河北新報』2006年6月24日付
●『週刊金曜日』609号(2006年6月9日)