小沢前幹事長「強制起訴」の奇妙

 ジャーナリストで前衆議院議員保坂展人さんが、小沢一郎氏「強制起訴」について、ブログで興味深いエントリーを書いている。詳細は「どこどこ日記」にあるが、以下に抄録する。

 小沢一郎氏「起訴相当」の議決は10月6日に発表されたが、検察審査会によるこの議決は、実は9月14日、民主党代表選当日になされていた。したがって9月21日以降に吹き荒れた一連の検察不祥事は、加味されていない。
 逮捕された前田検事が取り調べ、作成した「陸山会事件」の供述調書は、郵政不正事件同様に「検察のストーリー」を描こうとしてつくられた可能性もあり、ただちに再検証すべきではなかったか。
 9月14日に「起訴相当」の議決のあと、9月21日に前田検事が逮捕、さらに10月1日には大阪地検前特捜部長・副部長が逮捕された。検察の信頼は瓦解した。なのに「怪しい者は裁判で白黒つけよ」とテレビは無責任に報じている

 つづいて保坂さんは、検察側が有罪を立証できなければ無罪という推定無罪の原則を持ち出しつつ、元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士の指摘を紹介している。全文引用する。

 昨日の段階では、議決書の冒頭の被疑事実(不動産取得時期、代金支払時期の期ズレだけ)が、当然、そのまま起訴すべき犯罪事実になっていると思っていたが、よく見ると、添付されている別紙犯罪事実には、検察の不起訴処分の対象になっていない収入面の虚偽記入の事実が含まれている。検察の公訴権独占の例外として検察審査会議決による起訴強制が認められている趣旨に照らして、不起訴処分の対象事実を逸脱した被疑事実で起訴相当議決を行うことは許されない。今回の起訴相当議決は無効であり、強制起訴手続をとることはできない。

 つまり、検察審査会は、検察が度外視した事案をわざわざ引っ張り出してきて、「こっちも怪しいゾ」と難癖じみた議決を行ったことになる。それはそれで手を抜かず立派な仕事をしたと言えば言えるが、「不起訴処分の対象事実を逸脱」したことは、今後にどう影を落とすだろう。市民感覚を裁判にという検察審査会の制度は大いに意義があるが、このような逸脱行為が横行すると、勇み足の指摘を幾度と受けて審査会は委縮し、やがて制度の見直しへと発展し、結果的に自分たちの首を絞めることにつながりはしまいか。

 それにしても審査会の議決が三週間も前に出されていたにも関わらず、いままで伏せられていたのは奇妙である。市民から選ばれた平均年齢30歳の検察審査会メンバーは「小沢強制起訴」を、胸を張って議決したことだろうが、その直後の歴史的大不祥事・特捜部神話崩壊劇をどう見たか。あなた方が全幅の信頼を置き、議決の拠り所としている供述調書は、デタラメ検事の作文なのかもしれませんよ。

【追記】検察審査会の暗黒史。あの甲山事件で、無実の女性を20年以上も被告人にした発端は、まさに検察審査会による不起訴不当決議であった。当時の審査会メンバーは、「市民の感覚」という錦の御旗によって女性をどん底に陥れ、日本の裁判史に残る冤罪に加担した。はたして審査会メンバーは、もはや取り返しのつかない失態を、被告のYさんに詫びたのかどうか。