弱腰だの腰抜けだの

 職場の取引先で、中国に工場を持つ会社の営業の人に聞いてみました。尖閣諸島の問題で何か影響がないか、と。

 「まったくない」と言ってました。まあ、これは一週間ほど前の話で、中国から日本へのツアーが大量キャンセルという報道さなかのころ。その後のレアアース禁輸だの船長釈放だの以前の話です。でも営業マンに言わせれば、政府高官の声明とか旅行取りやめといった、分かりやすいテで日本に圧力をかけるのは単なる常套手段であって、辺境の工場など、中間層・底辺層が主体となってる産業は、よほどのことがない限り、おとがめなしなんだそうです。

 いっぽう、うちの会社にも中国人が営業に来ています。日本語を母語なみにあやつれ、日本の文化もすみずみまで知りぬいているエリート中国人です。その人によれば、今回の尖閣諸島騒動、はやく船長を釈放して、解決を図った方がよいとのことです。

 いま中国では、尖閣諸島をめぐる日本への圧力が加速度的に大きくなっています。船長は解放されたというのに、いったいいつになったら収束するのやら。

 尖閣諸島が日本固有の領土であることや、中国当局・中国人民の言い分が三下チンピラ同然の言いがかりであることは、どなたも言ったり書いたりしており、すべて同感です。でも中国とはこれまでもこれからも、隣人として付き合わなくてはいけません。

 私たちの生活に、中国という存在は、もはや欠かせないもの。食品・家具・衣類・電化製品・人手などなど、あらゆる分野で依存しきっていますから。私はかねがね(自民党政権下の)日本をアメリカの属国と揶揄していましたが、それは政治面の話であって、経済・生活の分野では、時の政権に関係なしに、中国の属国だったのですね。

 かりにあのまま船長を釈放せず、起訴までいってしまったら、それはそれで筋を通したと評価される半面、中国は大使召還・国交断絶まで踏み込むことが現実味を帯びてましたから。

 その先に見えるのは、在留邦人に対する迫害、尖閣諸島周辺での軍事行動、そして武力衝突……。

 やりかねません、中国なら。13億という人口を、一党独裁でコントロールする国。日本の10倍を超える人口を、当局の鶴の一声で思いのままに動かせるなんて、想像できますか?

 戦争なんて、失うものが多すぎます。でも中国にしてみれば、失っても取り戻せる自信があるのですね。日本は三権分立の民主・法治国家です。犠牲を考えずに戦争へ突き進む無茶は、一部の狂信的国家主義者以外にやらないでしょう。

 今後わたしたちは、どうやって中国と対峙すべきでしょう。

 力には力をと、タカ派政治家やネット界は、あいかわらず威勢の良い空気。では中国と同じように権力集中制の独裁主義国家になるか、あるいは戦前とおなじ軍国・帝国主義国家に戻るか。

 それとも完全に国交断絶しますか? 一触即発までいって、戦争を仕掛けられたら受けて立ちますか? 経済面で下半身を握られてる中国と全面対決。あしたからの生活がモロ直撃を受けます。「インドとか他国にシフトを移せばいい」と言うのは簡単ですが、威勢がいいだけでは話は進みません。交渉するのは誰なんでしょう。

 戦争は、やはり非現実的です。先に書いたように、犠牲が大きすぎます。犠牲を恐れるなというなら、そういうあなたが行動を示してほしい。弱腰だの腰抜けだのと言うあなたが、腰抜けでないところを見せてほしい。そうしてくれれば尊敬します。

 それはともかく、適当なニュースをひとつ貼ります。

尖閣事件】臨時国会大荒れに 与野党協調の「思惑」もろくも崩壊 野党は尖閣問題徹底追及
 沖縄・尖閣諸島沖での漁船衝突事件で日本側が中国人船長を勾(こう)留(りゅう)期限前に釈放したことを受け、10月1日召集の臨時国会は大荒れとなる様相を帯びてきた。政府・民主党は平成22年度補正予算案を円滑に成立させ、与野党協調路線の道筋をつけることを狙っていたが、野党は海上保安庁が衝突時に撮影したビデオテープの国会提出を要求するなど政府の対応を徹底追及する構え。民主党代表選でV字回復した内閣支持率は再び急落に転じかねない。(以下略)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100926/plc1009262126021-n1.htm

 問題は長期化の様相ですか。まあわたしは楽観主義者ですので、いま血相を変えてる中国人民も、あと一週間もすれば息切れして、そろそろ許してやろうという空気が漂うと見ています。

 でも、なにも悪いことをしていないわが祖国・日本が「許される」というのも癪な話ではあります。

 そのムカツキは、例によって政権与党へ向けられるのです。中国政府へ直接向ける人は、まず居ません(そういう点も中国とは逆なんですよね。中国人は怒りを日本政府へ直接行動で示しますが、中国人民が中国政府へ抗議することはしません。てか許されない。しかし憂える日本人は中国大使館へ抗議行動する以上に、時の日本政府へ批判をぶつける)。

 そもそも中国と国交正常化交渉をしたとき、尖閣諸島問題は棚上げされたのですがね。領土問題よりも、国同士、仲良くするのが先決だという当時の判断は、間違いだったのかな?

 船長を逮捕・拘留したのは、法治国家としてまったく正当な行為ですが、釈放したタイミングがいけないというのですね。わたしも微妙な感じは受けましたが、いずれ釈放するなら早い方がよい、というのは先の中国人営業マンの見解。

 確かに2004年に、小泉首相自民党政権は、尖閣諸島へ不法上陸した中国人を逮捕しながら、2日後に国外追放した前例がありました(中国はこの事件で味をしめた)。しかし今回は、海上保安庁の船に故意に衝突という、明白な被害を受けています。それを即刻追放という形で放免するのは、それこそ弱腰ではありませんか、谷垣さん。

 政権与党が自民党であれ民主党であれ、今回の事件はこじれていた。船長釈放が早いか遅いかの違いでしかない。相手は民主主義国家ではありません。ほんの数十人が13億人を意のままにあやつる、類を見ない強権国家なのですから。それを忘れてはいけない。

 似たような体制の国に北朝鮮があり、ときどき他国を恫喝する点も似ていますが、北朝鮮の恫喝なんて、中国のそれにくらべたら、幼子のグズり同様の可愛いもんだな、と思わされました。

 わたしの結論ですか? 中国当局や活動家から言いたい放題言われ、屈辱ではあるけれど、実効支配しているのは日本だから、根気よく地道に説得するしかない、と思ってます。たしか尖閣諸島問題は、それこそ国交正常化交渉のときに、中国のお偉いさんが「棚上げして次世代に解決を委ねたい」と言ってましたから。

 見方を変えれば、好材料もないわけじゃない。あの従軍慰安婦問題では、アメリカはじめとする全世界が中国を応援し、日本はまったく孤立していたけれど、今回はどの国も中国側に立っていません。 中国は今回も各国でロビー活動しているはずですが、成果がない、つまり無視されていることになる。

 尖閣諸島問題で孤立しているのは、中国です。
 (ときどき編集します)