青森の思い出 酸ケ湯温泉と八甲田登山

 昨年12月29日以来の青森出張シリーズ。なんか急に酸ケ湯行きたくなったので、そのときのエピソードでも。

 たしか7月の出張だったと思う。仕事を早々に終え、オフィスから八甲田へ向かい、中腹にある酸ケ湯を目指した。市内から一時間ほどで着く場所である。

 八甲田山十和田八幡平国立公園。ブナの森に入って感じたのは、ずいぶん太くてまっすぐ生長したブナだなーという印象である。おなじブナ林でも、秋田・岩手県境の原生林とは趣が違っていたのだ。下枝が少なく、見た目も堂々としていて、ちょうどスギの大木に似た伸び具合で、クマゲラが好みそうなブナの森が一面に広がっていた。

 湯治場の面影のこす酸ケ湯に着いたのは16時ころだろうか。千人風呂と呼ばれる広々とした浴場は、混浴である。硫黄の香りが漂っているが、お湯は無色透明。火山性の強酸性だから、慣れないうちは長湯は控えた方がいい。

 混浴といっても、男女別々のエリアがあって、十畳ほどの浴槽の中央付近から左右を女性・男性用と分けているのだ。こっちから半分を男性、向こう側が女性といった具合で。

 平日の夕暮れ時だから、女性入浴客などはもちろんいない。女性専用風呂があるから、ほとんどの女性はそちらへ入っている。

 仕事でかいた汗を流し、湯に浸かると湯加減もちょうどよく、硫黄の香りに心と体を癒した。

 暗くならないうちに帰ろうと思い、駐車場へ戻ると、わたしの車のライトが点いてて、ホテルの人が困っているところであった。

 青森オフィスがあったころに酸ケ湯へ行ったのはそれ一回だけだが、何カ月かしたころ、当時の人気テレビ番組「特ホウ王国」だかで、この酸ケ湯が紹介されてた。いわく「男女の仕切りが透明な温泉がある!」だったかと。

 たまたま市内の別の温泉でこの番組を見てて、脱衣所にいた人たちみんな噴き出していたな。地元の有名な温泉だから。

 まもなく青森オフィスは閉じて、あちらへ行くことはなくなった。でも、いちど八甲田山に登ってみようと思い、20代も終わりが近づいた1997年8月16・17日、酸ケ湯から八甲田登山を実行した。車中泊まりで翌朝、八甲田に登ったのである。そのとき車でしたためたメモを転載しておく。

 家を出たのは午後3時20分ころ。8時ちょっと前に酸ケ湯に到着。宿には泊まらぬが、登山計画書を出す窓口がここのフロントにあるので、今届け出をすませてきたところ。車の中でラジオを聴きながら「真に20代を飾る山行」に思いをはせている。今夜は車に泊まり、明朝7時前には出発する。土曜日とあって駐車場にはほとんど空きがなかった。大半が泊まり客だろう。十和田湖方面へ向かうらしい車がひっきりなしに通る。今回は特別な思い入れのある山行だ。
 黒石インターを降りて八甲田へ向かい、城ヶ倉大橋の手前で八甲田連峰が月明かりに照らされていたが、ガスが山頂を覆っているのが見えた。今回はさすがに眺望はあまり恵まれないらしい。だがそれでもかまわない。ここまでこれたのだから。

 翌日、4時ころには出発したのだが、えらく寒い朝だったこと、ガスの切れ間にみえた岩木山の勇壮な姿、大岳山頂から眼下に広がる雄大な雲海、雲が生まれる瞬間の連続など、感動的な情景が、いまも鮮明に思い出される。

 登山を終えて酸ケ湯にもどり、2年ぶりとなる千人風呂の気持ちよかったこと。

 酸ケ湯温泉は、わたしが生きているうちに、またぜひ行ってみたい温泉である。