ツグミが春とともに

 野鳥に餌づけするのはあまり好ましくないのだけれど、野生動物と触れ合いを通じて自然を身近に感じてもらうのは悪いことではないので、あまり口やかましいことは言うまい。

 それでも近ごろは鳥インフルエンザの流行で、ハクチョウやカモ類への餌づけを自粛する動きがひろがっている。以前にも書いたが、世界を飛び回る野鳥から異国の病気をもらっては怖いので、これはやむを得ないというより当然の措置であろう。彼・彼女らが人間と共存していくには、適度な距離をたもち、秩序をもって、過干渉にならない程度にやりすごすのが一番である。といっても彼らの生活をおびやかすのはいつも人間の側なのだけれど。

 地表が雪に覆われている秋田の山間部では、冬の間に見られる野鳥があまり多くない。一般的な冬鳥は川にいるコハクチョウに代表されるカモ類であって、小鳥の類は、留鳥以外ではなかなかお目にかかれない。なぜなら、エサを探せないからだ。地面が見えないのだから。

 ツグミという中型の鳥がいる。晩秋から初夏まで、日本ですごす典型的な冬鳥だ。大船渡にいたころは近くの土手で雑草の種をついばむ群れをよく見かけたが、秋田では、とくに私の地元では、めったに見ることがない。いるところにはいるのだけれど、なにもかも雪に覆われている当地には、彼らはやってこない。つがいでいつも行動するアトリなんて、地元では一度も見たことがない。気仙地方にはどこにでもいたのに。

 おふくろが庭木に差していたリンゴをついばむツグミを観察したこともあるけれど、地元でツグミを見たのはほんの2回程度。しおらしい声で鳴くカシラダカマヒワを見たのも一回くらい。

 それらは、雪解けがすすんで地面が見えてきだすころになると、目にするようになる。

 きのう、桐の木にとまるツグミを目撃した。どうやら春が近づいてきたと実感する。