震えるほどの本

 新年最初のエントリーは書評。以前読んで、寒けがするほど衝撃を受けた三冊を紹介します。
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国が川を壊す理由(わけ)―誰のための川辺川ダムか

国が川を壊す理由(わけ)―誰のための川辺川ダムか

 私がダム問題に関わるようになって14年目になる。初期のころ読んだ中で最も印象強く、いまもときどきページをめくる一冊。毎日新聞記者である著者が人吉通信部に赴任したころから取り掛かっていた川辺川ダム問題を、環境・人心・大義の3面から洗い直し、さらにその背後に潜む驚くべき事実を暴いた傑作ルポ。この本がきっかけになってダム反対運動の流れが変わり、川辺川ダムが改めて問われ、そして凍結へと帰着した。自然環境破壊をあつかった書籍は数あれど、この本を読まずしてダム問題は語れない。まさに珠玉の一冊。
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松下竜一 その仕事〈15〉砦に拠る

松下竜一 その仕事〈15〉砦に拠る

 ダム問題は古くて新しいと言えば言える。室原知幸という人がいる。かつて「下筌ダム」というダムで蜂の巣城を築き、全国を揺るがした男。室原は孤軍、私財を投じて、建設省の横暴と戦った。死ぬまでの生涯を、ダム反対運動に費やした。その妻の回想をもとに、著者は室原という巨人の素顔にせまった。

 当時の関係者――家族・運動の仲間・全国の有志・離れて行った仲間も含め、建設省側の当時の担当者にも談話をもらい、芸術作品のような文体で、蜂起から落城までをつづる。

 この本も、まさにクラクラする思いで読んだ。文章が神がかっている…。ある尊敬するジャーナリストT氏をして「尊敬している」と言わしめるほど。読んでよかった、この本に出会えてよかったとは思うが、この領域に私が達することは、金輪際、不可能だなと言わざるをえない。著者と親交のあった俳優・緒形拳は、本作の映画化を目指していたそうだが、当人の死去によって幻となった。なお、書籍はちくま文庫版を取り寄せましたが、ここでは河出書房新社版を紹介します。
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ダムで沈む村を歩く―中国山地の民俗誌

ダムで沈む村を歩く―中国山地の民俗誌

 この本を手に取ったとき、激しい後悔と慙愧と蒙昧に襲われた。もっとはやく入手し、読むべきであった。なぜこの本の存在を知らなかったのか――と。

 下地になっているのは『週刊金曜日ルポルタージュ大賞報道文学賞』受賞の中編ルポで、これは読んでいたが、あの悪名高い「苫田ダム」問題の追加取材をおこなって一冊の本にまとめられていたことを、迂闊にも知らなかった。刊行は2001年12月。俺は何をやっていたのか、これを真っ先に読むべきじゃなかったか…。

 これまた寒けを通り越して、めまいがするほどの本。活字を追うごとに、ページをめくるごとに、自分の筆力・取材力・センスの無さを思い知らされる。著者はわたしより10ほど年上に過ぎないのに、この途方もない実力の差は絶望的。これほどの着眼点や文章力がありながら、著者が出している本はこれと、あと薄そうなのが一冊だけっぽい。なぜ?

 というわけで、2010年もよろしくおねがいします。