『おくりびと』米アカデミー賞

 昨年9月27日に書いた映画評で、『おくりびと』(滝田洋二郎監督、本木雅弘主演)について、どちらかというと難癖というか批判がましいことを書いた。

 それが、モントリオールの余波を受けてか、国内のアカデミー賞で10部門を獲得したばかりか、ハリウッドの映画祭アカデミー賞外国語映画賞を獲ったときたもんだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090223-00000016-eiga-movi
 日本の映画文化が認められた、日本人として誇りに思う、といったコメントが多い。感じ方としては正しいと思う。ただ、ハリウッドの審査員が、本作のどういうところへ惹かれたかという分析を知れば、必ずしも「日本が認められた」とは言えなさそう。だって海外の評価は、「死という重たいテーマの所々に、ユーモアがある」というのが一般的だった。それってつまり「ウケたから」ってことだし。

 日本文化がすばらしいとか、役者の演技がどうのとか、演出が見事だとかは、いまのところ聞こえてこない。これから聞こえてくるかもしれないが、たしか5年前、おなじ外国語映画部門で有力視されながら受賞を逃した『たそがれ清兵衛』(山田洋次監督)の例を言うなら、『たそがれ―』の方がはるかに文化的だし日本風だし、設定の絶妙さも俳優の演技力も上だった。しかし受賞しなかった(そういえば『おくりびと』も『たそがれ―』と同じ山形県庄内地方が舞台ですね。庄内は名作映画を産み出す素地があるのかも)。

 『おくりびと』はつまり、モントリオールのときと同じく、外国人のツボにはまったということに尽きるだろう。「文化」だの「誇り」だのといった高尚なものじゃなく、案外低い次元で、わかりやすく面白かったということ。

 またしても憎まれ口を利いたようだが、もちろん『おくりびと』は秀作であり名作であり、日本映画史を飾る作品であることに変わりはありません。私も今回の受賞を、心から喜ぶものです。おめでとうございます。