野菜のドーピング

 甘いものが好きなおふくろに頼まれて、ときどきケーキを買ってくる。いつも買うのは苺ショートケーキ。真っ赤なイチゴと真っ白な生クリームでつくられ、シンプルで見た目もおいしそうな、値段も手ごろな定番だ。

 この寒い時季は、生菓子の傷みもあまり心配ないので、遠方へ出張したときも現地の洋菓子屋へ立ち寄って、そのお店独自の苺ショートがあれば、買ってくることも多い。一個だいたい280円から350円。平均300円くらい。

 でもイチゴって、旬は冬ではない。4〜5月の初夏なのだ。

 いまは栽培技術が進歩したから、一年をとおしてイチゴを見かけるようになったが、イチゴ出荷の最盛期はというと、なんと12〜3月なのだという。旬からはずいぶんズレている。

 ハウス栽培の賜物だ。私たちが食べているイチゴのほとんどは、人工的に、半ば無理矢理つくられたものらしい。

 最近の『いちご』はハウス栽培が大半であり、露地栽培はあまり見かけません。うどんこ病やたんそ病にかかりやすいデリケートな作物なので、土壌消毒※や農薬が欠かせないとされています。農薬を使用しない栽培はもちろんのこと、有機栽培は非常に少なく、大半は、有機的肥料ではない液体化学肥料だけで栽培されています。
※ 土壌消毒とは、畑にビニールシートを被せ、熱湯や熱い蒸気、または薬剤などを流し込んで、土を殺菌消毒することです。
http://www.seikatsu-guide.com/column/food_health/2007/01/post_6.html

 栄養価が高く体にもやさしく、安心して食べられると思われがちだったイチゴが、液体化学肥料や薬剤で仕込まれているなんて、どういうものだろうか。

 農産物には旬がある。春ならセロリ・アスパラ、夏ならカボチャ・トマト、秋はニンジン・タマネギ、冬では大根・ほうれん草などなど。それらはすべて、旬に関係なく、一年中スーパーで売られている。「旬」がない状態になっている。

 消費者の要望に生産者が応えようと努力し、品種改良と土壌改良を重ね、栽培技術の進化がもたらした恩恵ではあろうが、怪しげな薬剤と大量の燃料をつかって無理に発芽させ、強引に生育させるのは、いかがなものかと思う。これは野菜のドーピングであろう。もちろん安全基準は満たして栽培されているとは思うが、ドーピングの実態を消費者が知れば、そこまでして冬にイチゴなんて食べたくないと思う人だっているだろうに。

 初夏の青空の下、ミミズが棲みバッタが跳ねる土で生まれ、お日様の光を浴びおいしい空気と水でつくられたイチゴは、ところどころ虫に食われたり小鳥に突つかれたりしてても、それこそが本来のイチゴなのだろう。でももはや消費者は、そういう健全健康なイチゴを食する機会を奪われてしまった。いや、むしろ健全健康イチゴに嫌悪を示しているといったほうが正解かもしれない。

 高くても安全なイチゴと、危険で安いイチゴ、選ぶならどっち?