サイカチの木
サイカチという木があります。アカシアに似た葉っぱで樹木はトゲだらけ、秋にはでっかいサヤエンドウみたいな果実を実らせる大木です。
おふくろがよく言ってました。昔はよくサイカチの実を石鹸代わりに使ったと。サポニンが含まれていてよく泡立つのです。年配の人に聞いても、たいていサイカチを洗剤に用いていて、どこにいけばこの木があって、実を失敬しては洗濯や手洗いに重用していたのだそうです。
でも、私の地元・秋田県Y市の自宅周辺では、なぜかサイカチの木が見つかりません。あそこにあったはずだ、と聞いて探したけれど、もう伐り倒されたのか、それらしい樹木は見つけられませんでした。昔はどこでもだれでも利用していたはずなのに。
それが盛岡市内には、意外なことにけっこうあるのですね、北上川ほとり、住宅街にいくつか自生しているのを去年見つけました。付近の人によれば、この近辺ではだれでも知っていて、秋になれば実を採りにくる人もいるそうです。そろそろ採取には手ごろな時期なので、きのう帰宅の際に立ち寄って採ってきました。
北上川の流れる盛岡市N町、川沿いに3本のサイカチがそよ風に揺れていました。枝を見上げるとすずなりの果実。手が届かないので道路に落ちているのをひとつ、またひとつと拾い上げます。川にはカルガモがグェグェいいながら、私を怪訝そうな目で見上げていました。
これを自宅に持ち帰り、水につけます。果たしておふくろの言うとおり泡がたつのか? サヤを水につけてこすっても、ちっともヌルヌルしません。
話がちがうぞ、とおふくろに苦情を言うと、水の中でかき混ぜろと言う。言われたとおりにしたら、泡がみるみる立ってきました。おおお。
ほほー、これが石鹸のない時代の天然セッケンか。サヤがぬるぬるすると思ってたイメージとはやや違ってましたが。
橋の欄干を、付近の住民や子どもたちが洗い清めるイベントが、ときどき盛岡で行われます。そのときに活躍するのが、洗剤としてのサイカチでした。これなら川も土壌も汚しません。サイカチは「皀莢」と書きますが、「再価値」とあてて、その価値を再発見し、見直そうという動きもあります。
調べたらサイカチ種子は表皮がとても硬く、そのまま土に埋めても発芽することはないそうです。虫が殻を食い破り、タイミングよく雨が降れば発芽するのだそうです。きのう採ったサヤは、中に種がいっぱいつまっています。これに針かなんかを刺して種皮を破っておいてから土に埋めれば発芽するということでしょうか。