青森の思い出 海釣り

 「原別」はハラベツ。そう、アイヌ語(夷語)とされている。となりの地区は野内(ノナイ)で、これまたアイヌ語。ベツやナイはよく知られたアイヌ語で、ベツは大きめの川、ナイは小さめの川または沢を指す。ハラベツはパラ(広い)ペッ(川)、ノナイはヌプ(野原の)ナイ(川)が原型らしい。
http://d.hatena.ne.jp/bluesapphire/20070404/

 青森・岩手・秋田の北東北3県には、こうしたアイヌ語源の地名が多く、その昔この地に住んでいた人々が、アイヌ語母語として生活していたことがうかがえる。東北先住民がアイヌ人であったという説は正しくないそうだが、まったく違うとも言い切れないらしい。いずれ北東北の先住民・蝦夷は、アイヌ語を日常的に話し、地名にそれぞれの意味を託すことで、私たちに、遠い縄文の時代に思いを馳せる手がかりを残してくれたのである。

 青森オフィスのある原別は青森市の東部、郊外に位置するところにあり、旧国道4号に面しているが、どちらかというと住宅街に近く、朝夕のラッシュ時をすぎれば閑静な場所であった。

 オフィスの後ろには原別港と陸奥湾の海が広がる。歩いていける港で、小さな防波堤があり、天気のよい日は釣り人の姿も見えた。

 北国の夏は、夜明けがとても早い。緯度の関係でだが、夏至の日などは、沖縄より北海道が早く日が昇るほどだ。5〜7月は午前4時前から外がうっすら明るくなるくらい。

 青森出張はホテルを使っては宿泊代がかさむので、私はオフィスに布団を持ち込んで寝泊まりしていた。朝早く目覚めると防波堤に釣り人が3〜5人はいる。私もいっぺん、海釣りというのをやってみたくなってきた。

 オフィス近くに小さな釣具店があって、ありがたいことに朝5時から営業をしている。そこで釣具一式をそろえ、早朝に釣りえさを買い求めてさっそく港へ向かった。

 川や沼、渓流釣りならやったことがあるが、海釣りはほとんど経験がない。まあロッドをつかった投げ釣りで沖に仕掛けを放り、竿の先っぽの動きでアタリを見るのだ。素人でも難しくはない。

 川や渓流釣りは釣れる魚がほとんど決まっているが、海釣りはなにが釣れるかわからないところに醍醐味がある。といっても港で竿を出す初心者に、大物がそう簡単に釣れるわけはない。釣れるには釣れたが、フグやカワガレイといった、どうでもいい魚であった。おいしい魚として期待したアイナメは釣れなかった。カワガレイを持ち帰ってコンロで焼いてみたけれど、とても食えたものではなかった。

 就業までのほんの2時間ほどだが、早起きして近所で釣りのできる出張なんて、ここ以外で経験はない。穏やかで潮風のかぐわしい陸奥湾の海が、10年以上経ったいまでも目に浮かぶ。