職人を殺す法律

 2年前に大騒ぎになった耐震偽装問題、違法建築なんて生やさしいものではない、マンション建設工事のさいにコンクリート柱の鉄筋を極端に減らして安上がりにし、利ざやを上げるという、確信犯的手抜きをしていたことが明るみになった問題だった。1998年に建築基準法が、共産党をのぞく政党の賛成多数で改悪され、自治体ではなく民間業者がお手盛りのチェックを行えるようになったのが、そもそもの発端であった。
http://d.hatena.ne.jp/binzui/20060131

 あの騒動をきっかけに、建築基準法がまたも改められ(2006年)、これが施行されたのがことし6月20日。改正(改悪かも)の柱は、なにをさておいても建築確認審査の厳格化であった。とにかく厳しく新築建物をチェックし、それに要する期間も長く割くというもの。

 マンションはもとより、私たちの住む家が地震でつぶれては大ごとだから、国の機関も民間機構もより厳しくチェックし、その時間も多めにとるというのは、あの事件の教訓と受け止めることもできよう。だが結果としてこれが、わが祖国の伝統的建築文化をないがしろにするばかりか、滅ぼしかねない愚劣な行為に走ろうとしている。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20071026_3

 岩手日報の記事。コピペは不可能なので要約する。岩手県沿岸南部の大船渡市・陸前高田市は気仙地方とよばれ、独特の宮大工技術を操る「気仙大工」の本場でも有名。気仙大工の工法は「軸組工法」と呼ばれ、住宅メーカーの安価で単純な「筋交い工法」とは違い、地震の力を分散させる“柔”の技を活かしたところに特徴がある。

 改正(=改悪)建築基準法では、気仙大工の伝統工法「軸組工法」で仕上げた住宅は、マンションなどの大規模建築とおなじ「限界体力計算法」で耐震審査を受けることになっている。住宅メーカーの筋交い工法だと比較的簡単な審査ですますのであるが。

 改正法は、大規模建築の耐震偽装を防ぐため同計算法による審査を大幅に厳格化。一般的な住宅の場合、筋交い工法では審査経費などが合計約22万円、期間が一週間で済むのに対し、軸組工法は約125万円、70日間もかかるという。

 マンションなどの「大規模建築の耐震偽装を防ぐ」のであれば、あくまで大規模建築を厳格に審査してほしい。なのになぜ伝統工法の一般住宅をマンション並みに厳格に審査しなければならないのか。職人技術などさして必要としない机上の計算で造れる筋交い工法であればOKと? 金具をはめ込み、補強材で固めるだけの、カンナもノミも使わない素人大工で充分可能な仕事をもっと普及させろと? 100年以上も培われてきた伝統の技は、いらないと?

 またこうして日本から、伝統と文化が失われてゆく。私たちにとってかけがえのない住まい、日本の風土と気候と風景に根ざした家々が、さらに減っていく。かやぶき屋根の農家。火災防止という理由で新築は不可能になった。すべて瓦ぶきかトタン屋根だ。

 日本の文化を守れ、伝統を絶やすな、などと叫んでいる連中が応援している政治家は、こうして日本の伝統をどんどん破壊してゆく。職人は隅に追いやられ、誇りを失い、後継者のなり手も現れない。

 大船渡にオフィスがあったころ、気仙大工の方と何度も話す機会があった。みな職人気質が強く、生真面目で融通が利かず、怖い人が多かった。だからこそ腕には信頼がおけた。あの人たちの技が光る建物はみなすばらしいものだった。

 なにが伝統を守れか。日本の文化に誇りを持てか。