大雨あがって

 先週末は盛岡で勤務していて、週末の雨がだんだん強くなり、敬老の日の月曜日はとうとうまる一日強い雨が降りどおしだった。

 岩手・秋田・青森に秋雨前線が停滞し、北東北3県は洪水警報、盛岡もあちこちで冠水したらしく、オフィス近辺に避難勧告が出されたそうな。私が秋田へ向かったあとのことだけれど。

 東北では、洪水警報自体は年に何回か出されるけれど、たいていは軽い被害で落ち着く。でも今回はかなりの被害があったようだ。昨夜のニュースではけっこう大きく扱われていたし、今朝の朝刊でも地方版では写真が何枚も掲載されていた。泥水に覆われた田んぼや住宅などの無残な姿が。

 洪水の原因は、もちろん直接的には許容を超えた豪雨によるだろうが、被害を拡大させたのは、人災的側面が大きいのである。

 洪水を食い止めるために造られたはずのダムが、マニュアルどおりに放水したところ、下流域に一気に水が押し寄せ、堤防が決壊し、住民が避難するよりはやく浸水して、人命や住宅が失われた例が過去にいくつもある(「ダム洪水」と呼ばれる)。

 水路の構造にも問題があった。水を早く大量に排出させるため、3面コンクリートの直線型U字溝が普及した結果、枝分かれの支溝を流下してきた水が、本溝にドドーっと集まる。そうなれば本溝があふれ出すのは自明。結果、河川にも短時間に一気に集中し、堤防の決壊を招く、というパターン。

 いずれも河川を管轄する都道府県河川課や国交省、農業用水なら土地改良区=農水省の指導のもとに行われた河川・水路改修の副作用である。

 でも国家はそんな責任を、まず認めない。住民が裁判に訴えても、裁判所が政府にはむかう判決を下すことはない。国家は逆に、もっともっと水路を“整備”(つまり破壊)しようとする。

 なぜか? 理由は簡単、土建業者に仕事を与えるためだ。

 業者は自民党政治家に献金する。自民党政治家は役人に圧力をかける。役人は自民党政治家の指定した業者に仕事をまわす――。

 洪水だ! 堤防をコンクリートで固めちまえ、土水路をコンクリート張りに変えちまえ、渓谷にダムを造っちまえ、工事用道路つくるから仕事もいっぱい付帯するだろう……。

 これがわが祖国をリードする、エリートたちの姿なのです。エリートたちが護っているのは国民でも国土でもなく、自分らの利益なのです。

 輪中堤(わじゅうてい)・木工沈床工(もっこうちんしょうこう)・粗朶沈床工(そだちんしょうこう)・柳枝工(りゅうしこう)というのがある。日本に古くからある、伝統治水工法だ。いずれも日本の地形・気候・風土に根ざした、自然にやさしい工法。

 ところが明治以来、日本政府はこれをことごとく放棄した。

 1990年代にはいり、旧建設省は、従来の破壊一辺倒の河川事業をあらためて、伝統治水工法を見直しはじめた。各地で実験的に採用しているが、コスト面や職人・技術者の不足などで、一般化するまでには果てしなく遠いのが現状。伝統工法を知る職人を絶滅寸前に追い込んだ張本人は、国家そのものなのだから。

 洪水だ、やれ土木工事だ――そんな機運がまだまだ根強い。保守的な東北の田舎ではなおさら。

 秋田はよく晴れています。