さようなら

「ここだ、停めろ」
乾いた声が聞こえたと思ったら、車が急停車し、静香は車外へ連れ出された。
両脇を男に抱えられ、アスファルトでない土の感触を踏みしめると、ひんやりとした夜の空気が細身の体にからみつく。
猿轡を噛まされているので声は出せないが、静香はどんなに哀願しようと男たちが自分を見逃さないことを知っていた。
すでに諦めていた。自分はこの男たちに殺される運命にあり、抵抗しても無駄であると。
「悪く思わんでくれよ。俺はあんたになんの恨みもないが、あんたは死ななきゃいかんのだよ」――男は淡々と、しかし申し訳なさそうに言った。
目を覆っている布が涙で濡れていることを容易に想像できたとしても、男たちは鬼畜の所業を止めようとはしまい。静香は自分の運命を呪うしかなかった。
「せいぜい苦しまないようにしてあげるさ、さようなら」
静香に話し掛けていた男が、もうひとりの男に合図した気配を感じた。
背後に回った男が静香の首に紐を回し、一気に締め上げる。
静香の身体が瞬時に反り返る。男は満身の力を紐にこめる。
痙攣していた静香の身体は五分ほどで動かなくなった。
「念を押せ」。指令役の男が短く命じた。ぐったりとした静香の首の紐に、実行役の男が再び力を加える。
さらに五分が経った。――「もういい」。実行役の男が手の甲で汗をぬぐう。
下半身が糞尿で汚れた静香の死体をその場に置き去りにして、男たちは去っていった。
三十分後、8ナンバーの黒塗りの車がきて、すっかり冷たくなった静香の死体を回収していった。
翌日の夕刊の片隅にこんな記事が載っていた。
「米軍ミサイル配備問題追求の女性記者変死/青森」

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以上,きまぐれに書いた小説です。批評は禁止ね。ここ見てる人いないだろうけど。