美人を撮る

2006年カタクリ群生地

いくつも咲いているカタクリの中から「これだ」と思うものをひとつかふたつ選び,被写体を決めたら撮影の準備を開始。

角度,光の当たり具合,花びらと葉っぱの色つや,周囲の花や枯葉,青空と木々のコントラスを絶妙な位置で確かめ,被写体を一番美しくカッコよく鮮やかに,撮影する。

これでも自称アマチュア=カメラマンである。被写体は人間から動植物までさまざま。きょうは日が高くなるにつれ青空が広がりだし,時期的にも野山の花が春を謳歌しているころ。フィールドへ出かけたら,紫や白のカタクリタチツボスミレキクザキイチゲなどなどが遅ればせながらといわんばかりに咲き誇っていた。ようやく春の風景にめぐり合えた。今年も。

ホオジロが鳴いている。オオルリヤブサメセンダイムシクイの声。遠くノスリが甲高く。雪解け水を集めた小川のせせらぎが耳にやさしい。ミソサザイのさえずりはまだか。

カタクリ群生地を歩いていると,いた,ヒメギフチョウだ。カタクリから採蜜する“春の女神”と呼ばれる蝶だ。

「こっちにきて留まれ,きれいに撮ってやるから,いい子だから」低く声を出して呼びかける。

生き物に語りかけると,意外に言うことを聞いてくれることがあるのだ。みなさんもお試しあれ。しかしヒメギフチョウはひらひら舞って行ってしまった。恥ずかしがりやめ。羽化してまだ数日,元気いっぱい,そう簡単に撮らせてくれない。

ことしのカタクリも美人ぞろい。どれを撮ろうかといつも迷う。どの花も「私を撮って撮って!」とアピールしている。花の命は短い。いまを一途に,精一杯生きて,春の喜びを私にも分け与えてくれる。

花の季節はわずかだ。あとせいぜい一週間。美しい彼女らの姿をここに。