『借りぐらしのアリエッティ』

 ジブリ最新作『借りぐらしのアリエッティ』を観てきた。期待以上の名作であった。

 シネマへ行ったのは10日の夜で、当日、たまたまNHKでこの映画のドキュメンタリーが放送されていて、それを途中まで見ていたら、宮崎駿監督が弟子のアニメーター・米林宏昌氏を自らの後継者?にと、完全委任のかたちで監督を任せていた経緯がつづられていた。息子の吾朗氏が『ゲド戦記』をつくったときは、肉親間特有のドロドロした葛藤が画面からムンムン感じられたものだけど、『ジブリ 創作のヒミツ 宮崎駿と新人監督 葛藤の400日』というタイトルの割には、宮崎氏の側には大したモヤモヤがうかがえなかったのが、興味深いところではあった。

 さて映画評。原作は海外の童話『床下の小人たち』らしいが、物語の企画・脚本は宮崎駿氏である。その割に登場人物がすくなく、ストーリーもいたってシンプルで、まさにシンプル・イズ・ベストを絵に描いたような作品。そうなるとまさに監督の手腕が問われることになり、米林宏昌監督がいかに、地味な展開のなかで観客をひきつける演出をおこなうか、それが一番のテーマであろうか。

 満点に近い出来であった。米林宏昌監督は、見事に期待に応えてくれた(と個人的に思う)。

 起伏のすくないストーリー運びと、動きの小さいキャラクター。それなのに観客を最後まで飽きさせず、登場人物に感情移入させるセオリーをきっちりこなした。基本をしっかり押さえ、ジブリのスタイルを完璧に身に付けたプロなればこその技量であろう。

 前作『ポニョ』と比べると、その違いがよくわかる。ポニョはいくつもの“見せ場”があった半面、トイレに行ってもよさそうな退屈なシーンもところどころに配置されており、全体的にムラがあって、鑑賞後に疲れが感じられたものだけれど、本作は大きな見せ場シーンがない代わり、退屈なシーンもほとんどない。折れ線グラフに例えるなら、ポニョは急登あり急降下ありのジグザク、本作はなだらかな登り降り。これなら疲れを感じず、鑑賞後の余韻にもゆっくり浸れる。仮にグラフの数値を平均化すれば、本作はポニョ以上と言えるのではないか。

 音楽も効果も言うことはない。細かいことを言えば難癖つけたくなる部分もあったけれど、アラ探しは控えよう。

 米林宏昌監督は、よい後継者になれそうな気がする。次回作に期待します。
(8月12日記)