歯医者のこと 矯正する前に

 あしたも歯医者だけど、ちょい用事が入りそうなので延期してもらうつもり。きょうは一日、内勤でした。
 * * *

 さて、Q医者のところで歯列矯正してもらおうと、内心ビビりながら受付に保険証を出した。

 「あのー初診ですが、矯正お願いしたいんです」

 「矯正ですか? とりあえずこれに書いてください」

 と出されたのはアンケート用紙。普段の食事や好き嫌い・嗜好などを記入するものだった。初診の患者には、すべてこれへの記入をさせるらしい。酒・タバコはやらないし、当時はコーヒー嫌いだったが、間食はときどきしていた。お菓子も普通に好きだったことを正直に記入した。

 まもなく名前を呼ばれ、いきなり医師による口内チェック。歯と歯グキのすき間に短針を差し込んで、溝(歯周ポケット)の深さや、歯周病(歯グキの炎症度合い)の有無、虫歯の有無をくまなく調べるのであった。「ゼッソク(舌側)、キョウソク(頬側)、キンシン(近心)、エンシン(遠心)、3ミリ、4ミリ」などと専門用語を連発し、そばで衛生士さんが記入している。

 専門用語とか、いまでこそ細かくわかるのだけれど、あの時はとにかく何が何だかわからず、P医者ではやったことのない診療で、短針のチクチクとした痛みだけひどく(これは歯周病のため)、ひたすらそれに耐えて心臓がドキドキ、全身汗まみれであった。いったい俺は何をされているんだ! とね。

 やっと終わったらしく、衛生士さんにうがいを促され、口をゆすぐと血まじりの唾液がどろっと…。

 まもなくQ先生がお目見え。「ビンズイさん、矯正したいの? どれ――」と、私の歯の噛み合わせを凝視する。「ハイ噛んで…開いて…噛んで…」と交互に見比べるQ先生。おそらく矯正前と後をイメージしていたのだろう。

 「デコボコ気になりますか? …うん、まあ、きれいになると思いますよ」とのお言葉。

 とりあえずホッとするわけだが、さきほどの歯周チェックの用紙を見て、Q先生が言った。

 「うっわー、これは大変だわ

 え、なにが大変なんですか。

 「あのねビンズイさん、矯正ってのは歯を動かすわけだけど、健康な状態ならすぐにでも取り掛かれるんだけれどね、あなたのは、かなり歯周病が進行してるわけ」

 どうやら私の歯は、不健康な状態なのであった。中度の歯周病だったらしい…。

 「まず、歯周病をきちんと治してからでないと矯正は出来ない。でないと、いま無理やり歯を動かしたら大変なことになるから」

 あ…そうなんですか…。

 「それとね、歯を動かすには、どうしたって邪魔な歯を抜かなきゃならないんだよね。あなたの歯の、これとこれ、上下4本抜くことになるからね」

 「……」

 まあ、覚悟の上ですから。

 というわけで、実際に矯正に取り掛かる前に、まずは歯周病を治すことからはじまった次第。

 家に帰ってからお袋に、Q先生とこで矯正するわと言ったら「そこ、お前が小さいころにお世話になった先生だよ。お前が大泣きするから結局行かなくなったんだよ」と言われた。確かに俺は幼少時分、大の歯医者嫌いで大泣きした記憶が…。