すしの自販機

 おふくろ連れて回転ずしを食いに行きました。ひと月ほど前に開店したとこです。タッチパネルで注文して、おもちゃの電車が運んでくれるんです。

 回転ずしといえば、目の前を流れてくるネタを好みでさらうほか、カウンターの中の板前さんに注文するとこが多いけれど、あれって板前さんに聞こえなかったり、注文の種類が多いと間違えたりと、なにかと面倒だったりするのですが、これだと安心確実ですね。

 おなじ店は盛岡とかにもあって、初めていったときはまごつきましたが、慣れると便利。好きなものを好きなときに間違いなく注文できる。いってしまえば自動販売機。

 でもあれですね、板前さんとのコミュニケーションができないというのは考えものです。

 食べ物を扱う人に、自分の意思を直接伝え、それをじかに調理して、お皿に盛り付けてもらい、目の前に差し出されたときの、ほのかな感動。人と人との対話や意思疎通、共感し合ったり、ときにいさかいがあったりと、その場だけの出会いに会話が弾めば、そうしたコミュニケーションを楽しむのも、外食の醍醐味だと思うのですけれど。

 お店に行けば店員に、常連さんとしてもてなしてもらえる。お天気の話、仕事の話、お互いの家族・趣味・休日の過ごし方……そういった何気ない会話が、このお店ではできません。

 たとえ何十回通ったとしても“常連扱い”はされません。

 他人とのコミュニケーションが苦手な現代人、とくに、わずらわしい人間関係が嫌っていう若い人には、うってつけのツールでしょうね。

 おいしいものを食べに行って、嫌な思いをしたくないのはだれしも思うこと。でも、ここまでコミュニケーションを封じ込めて、いったい外食産業はどこへ行き着くのでしょう。

 ひさびさにすしをたらふく食ったおふくろ、刺身は当分見たくもないと言っておりました。