駒の湯温泉と湯ノ倉温泉の思い出

 先の「岩手・宮城内陸地震」で、震度5強だった私の地元を含め、秋田では壊滅的な被害はなかったけれど、栗駒山のむこう、宮城県側の被害は想像を超えるものらしい。

 テレビの画面に土砂崩れの映像が現れ、目がくぎ付けになった。それはまだしも、土石流によって旅館の建物が根こそぎ流され、とんでもない位置に押し流された駒の湯や、今朝の朝日新聞一面に出ている湯ノ倉温泉の、一階部分が水没した写真は、身につまされるものがある。どちらも行ったことのある温泉だからだ。

 もう10年以上になるだろうか。旧迫町(登米市)での仕事の合間を見て、栗駒山登山口ちかくにある駒の湯へ行ってみることにし、旧栗駒町栗原市)を過ぎて栗駒山を車で登り、開拓地のはずれにある温泉に夕方近くに着いた。

 当時は改装前で、木造の古ぼけた建物は、いかにも郷愁を誘うものだった。あまり大きくない木製の浴槽にうっすら白濁した硫黄泉。ややぬるめで長湯しても湯あたりしなさそう。すがすがしい空気を吸い込んでしばしの休息を楽しんだ。

 湯の倉温泉は旧花山村の奥にひっそりたたずむランプの秘湯だ。温湯(ぬるゆ)温泉まではバスで行けるが、そこから林道終点まで行って車を止め、山道を歩くことになる。

 ブナの生い茂る道を登り、下りになってまもなく、渓流沿いにトタン屋根の民家風情の建物が見えた。それが藩政時代より続いている秘湯・湯の倉温泉である。

 一迫川渓谷に面した場所には露天風呂があり、渓流釣りの人が湯に手を入れて「いい湯加減ですね」と声をかけていった。内湯では小さい女の子を連れた老人と談笑した。湯につかっていると帰るのがいやになるくらいだった。

 駒の湯は、あの様子だと存続も再開も難しかろう。湯の倉は増水が引ければ再開できようが、下流の土砂が除かれない限り、どうにもならない。土砂ダムはいくつもできているのだ。

 切り立った崖を埋めてしまった大量の土砂を、どうやって取り除くのか、素人目にも膨大な手間ひまがかかるだろうに。重機を持ち込んでダンプカーに積み込み作業するにも現場までの道はない。道を造るには木を伐り、山を削り、谷を埋めなければならない。国定公園に指定されている一帯で、そんなことが許されるはずもない。

 あるがままの自然を大切にしたいと思う。だけれど、古くから受け継がれてきた自然の恵みも子孫に残してあげたい。

 智慧が試されている。