扇動しても先導せず

 自分の主張が正しいと思う人は、とことんその主張を押し通すが筋であって、途中で捻じ曲げたり反転させると、信頼を失ってだれからも相手にされなくなる悲しい結末が見えてきます。

 私憤と公憤を使い分けつつ、社会に巣食う悪に対峙する姿勢は多くの人たちの共感を得られる反面、「多くの人たち」の支持と支援をいつまでも取り付けられるかは、その人の熱意と、それに裏打ちされた行動しだいでしょう。口先だけ立派なことを言ってギャラリーを煽っておいて、自ら先頭に立つわけでなく、「口先だけ」のスローガンとパフォーマンスに終始するようでは、「多くの人たち」はやがて、自分らは踊らされたんだと気づき、自嘲を呼び起こす。結果、愛想を尽かし、離れていってしまう。

 踊らされただけならまだしも、騙されるひとも相当数いる場合が多い。それでも気づいただけマシと言えるかも知れません。踊らされたこと、騙されたことに気づかず、相も変らぬ道化師を演じている単細胞が、ここ10年ほどで若い世代に爆発的に増えました。これだけ情報があふれているのに、なぜか踊らされてしまう。騙されてしまう。どこかの全体主義国家ではなく、報道・言論・思想、いずれの自由が保証された、現在のわが祖国においてです。

 あるタレント弁護士さんがテレビ番組でこう言いました。

 「一斉に懲戒請求をかけたら、弁護士会としても処分を出さないわけにいかない」

 その結論が出たようです。

光母子殺害:弁護士は懲戒せず 東京弁護士会が議決

 山口県光市で99年に起きた母子殺害事件差し戻し控訴審弁護団(約20人)の弁護士に対して、全国で懲戒請求が相次いだ問題で、東京弁護士会が「正当な刑事弁護活動の範囲内で、懲戒しない」と議決していたことが分かった。

 同弁護士会が所属弁護士1人について調査した結果をまとめた22日付の議決書によると、この弁護士は「広島高裁の公判で非常識な主張をし、被害者の尊厳を傷つけた」などとして懲戒請求されていた。これに対し弁護士会は「社会全体から指弾されている被告であっても、被告の弁明を受け止めて法的主張をするのは正当な弁護活動。仮に関係者の感情が傷つけられても正当性は変わらない」と退けた。

 懲戒請求を受けていた弁護士は「当然の結論だが、早く議決していただいた弁護士会には感謝したい」と話している。

 懲戒請求は、弁護士が所属する弁護士会に対して誰でもできる仕組み。光市事件弁護団への懲戒請求は、タレント活動で有名な橋下(はしもと)徹弁護士=大阪弁護士会所属=がテレビ番組で呼びかけたことをきっかけに爆発的に増えた。

 日弁連のまとめでは東京や広島など各地の弁護士会で計約7500件に達しているが、これまでに弁護士会が結論を出した十数件はいずれも「懲戒しない」と議決している。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20071127k0000e040051000c.html

 この経緯については以下を参照。
光市事件裁判報道に思うこと

 橋下弁護士の見通しは外れたようです。7500件もの懲戒請求を、弁護士会は認めなかったのでした。

 橋下弁護士の呼びかけに応じて懲戒請求を出したにもかかわらず、これを蹴られた7500人の方々は、今後どうすべきでしょう。それは橋下弁護士が示してくれるかもしれませんが、橋下弁護士ご自身が懲戒請求をしなかった、つまり行動しなかったことを留意しつつ、結局は自分が行動する(踊る)ことになるでしょう。たとえば「○○弁護士をやめさせる市民連合」みたいな団体を結成するとか。7500人なら凄い数ですが、いまのところそうした動きが見られないのも不思議。

 弁護士会の議決に不服があれば異議申し立てができるとか。さしあたってやるべきことはそれでしょうが、橋下弁護士の呼びかけ(行動ではない)を待ってからでもいいでしょう。