『大日本人』――おかしさは後から

 二週連続で盛岡にて映画を観てきた。『大日本人』である。ダウンタウンの松ちゃんこと松本人志が初めて監督を務めた話題作。あの映画界最高峰・カンヌ国際映画祭の監督週間部門に招待された話題作である。

 松本は,笑いのセンスというか「ボケ」の絶妙さが群を抜いている芸人であるだけでなく,エッセイストとしても秀逸で,お笑い以外にも類まれな才能に恵まれているだろうことは想像に難くないけれど,ついに映画製作に進出したとなら,それもカンヌに招待されたとなればこれは観ねばなるまい――と最近まで思っていたのだが,カンヌでの評判はイマイチどころか酷評に近いらしい。

 映画のストーリーは公開ぎりぎりまで明かさなかったというが,いったいどういう中身なのか。いろいろな意味で“期待”をこめてシネコンへ行ってみた。昨夜のことである。

 20時50分上映のレイトショーだったわりに,土曜日とあって館内はなかなかの入りであった。座席は半分ちかく埋まっていたかな。

 ――と,いつもなら配役とか音楽とか演出とか,出演者の演技力とか監督のメッセージとかあれこれ論じるところなのだけど,正直,観終わった後では,こまかく内容を検証したり感想を書く気が失せてしまっている。

 鑑賞時の娯楽モードと取材モード。その切り替えがいちいち面倒くさくなってしまい,三分の二くらい過ぎたあたりでどうでもいいモードになってしまった。

 これじゃカンヌのそうそうたる面々は,良い評価は下さないわな…。

 駄作ってわけじゃない。難解ってわけでももちろんない。こだわりがないわけでもない。ぶっちゃけ,松ちゃんの独り善がり映画に終わってます。

 松ちゃんのセンスに心底惚れこんだファンなら大絶賛することだろうけれど,中身としては,以前テレビでやってた「ダウンタウンのごっつええ感じ」の特番みたいな雰囲気。

 松本流の「ボケ」と「間」。そのままスクリーンに映し出すのは,ウケる人にはウケるだろうが,松本ファンではない一般の多数にはそれほどツボにはまらないし,いわんやカンヌに集まる世界選りすぐりの映画人には,わからんて…。

 なんか報道ではカンヌでの上映で,終わらぬうちに席を立つひとも目立っていたとか。だろうなあ。昨夜だっていたもの,上映中に帰っていったひと。もちろん俺は最後まで観ていたけど,終盤には「早く終われよ」と思っていました。

 同じ芸人畑の映画監督の先輩でもあるビートたけしは,松本を「才能がある」とリップサービスしたそうだが,才能を認めるのはたけしではない。たけしはまだ認められる側にいる存在なのだ。松本は残念ながら,認められるまではいかなかったようだ。まあどこが問題であるかは書かないでおく。一見の価値もないことはないが,あんまりお勧めできないです。松ちゃんファンなら必見だろうけれど,この作品によい評価を与えなかったカンヌの審査は,的確であったことは間違いない。

 でもおもしろいもので,観終わった翌日,つまりきょうになって,昨夜の上映を思い出すと,なぜかおかしさがこみ上げてきてしまう不思議。あのシーンをいま思い出して笑ってしまうのってどうなんだろうね。もちろん松本人志監督には期待しています。次回作,がんばってください。