binzui2006-05-07

やるだけのことはやった――とはいえ,なにも変化がなければ,なにもやらなかったに等しいのかもしれない。このひ弱な細腕で,何人かの仲間と賛同者がいるものの,周りは圧倒的な「迎合者」の集まりばかりの状態で,やるだけはやった,などど生意気を言う口でもあるまい。

でも,ではどうするか? まだまだつづけるか? それだけの気合いと気力を持続する勇気・信念を貫けるか?

ははは。無理だって。どうせなにも変わらない。俺になにができる? 一矢を報いたつもりでいるのだろうが,敵は蚊ほどにも感じていまい。

聴こえるよ。声が。ヤツじゃない。

なんの声かな,いや音かな。

せせらぎ――

葉ずれの音――

枝が風にきしむ音――

鳥の声――

虫の声――

雲が流れる彼方から遠雷の響き――

雨が木を,葉を叩く音――

ゴゴゴゴと山全体がうなりをあげる,山鳴り――

幹に耳を当てたときに伝わってくる重低音まで……

いけね! あの空間がちらつく。沼の上に雲がつぎつぎに生まれる瞬間の連続が。

あれは八甲田に登ったときに見たんだっけ。まるで天上界の奇跡だった。

おっと,こんどは焼石岳を歩いたときの光景まで。全身が感動で震え上がった。

山って怖いね。そういえばだれかが言ってたのを思い出した。ひとりで山に入って気持ちわるくないのか――と。

うん,山には精霊がいるんだよ。太古の昔から人間や動物の営みを見守ってきた,森羅万象の神々がね。

妖精も物の怪もいる。うかつに入りこんだ人間を喰らう化け物が,いまも棲んでいるんだよ。

友人の子どもからこんなことを聞かれた。「熊っているの?」

「いるよ,見かけたら話しかけてごらん,友だちになれるかもしれないから。熊だって友だちがほしいんだよ,人間のことを山の仲間と思ってくれるかもしれないだろう,だから熊を怖がることはない,見られたらとても幸運と思った方がいいよ。ヘビやトカゲも同じだよ,みんな山の仲間,俺たちの友だちなんだよ――」

でも,もうあいつらは,俺らの前に姿を現さない。どこかへいってしまった。いるのは,人間を敵視している歪んだ動物だけ。

彼らをそうさせたのは,俺たち人間なんだから。

なんでこうなったんだろう。いつからこうなったんだろう。

それ以前に俺はどうすべきなんだろう。