胆沢ダムも凍結?

 メーリングリストを通じて某弁護士さんより驚きの知らせが舞いこんできたので、取り急ぎ書き込む。『読売新聞』の報道だ。

48ダム一時凍結、次段階工事に進まず…国交相
 前原国土交通相は9日、国や水資源機構が実施している56のダム事業のうち、ダム本体が完成し、改修などを進める8事業を除いた48事業について、今年度は新たな工事手続きには入らず、事業を一時凍結する方針を明らかにした。
 ダム工事は〈1〉用地買収〈2〉生活再建工事〈3〉転流工工事〈4〉本体工事――の各段階を経て完了するが、48事業は今年度内に新たな段階に進まない。道府県が実施している87のダム事業については、各知事の判断を尊重するという。
 現在、全国で進めているダム事業は、前原国交相が建設中止を既に明言している八ッ場(やんば)ダム(群馬県)と川辺川ダム(熊本県)のほか、計141か所あり、前原国交相は工事の必要性について、自らと副大臣政務官で見直していくと表明していた。
 国交省によると、48事業のうち、北海道の「留萌ダム」と、和歌山県の「紀の川大堰」は新たな手続きに入らずとも、今年度中に工事が完了する。このほか、岩手県の「胆沢ダム」や奈良県の「大滝ダム」など16事業が最終段階の「本体工事」に入っているが、来年度以降、最終的に完成させるかは今後、検討を進める。
 一方、自治体が主体となって事業を行い、国が補助金を出す87のダム事業について、前原国交相は「知事の判断を尊重する」と述べ、国のほうから凍結は求めない方針を示した。しかし、補助金の拠出については「我々で判断できるが、知事とも相談する」と語り、補助金停止にも含みをもたせた。
◆凍結するダム事業◆
 【建設段階】〈北海道開発局〉幾春別川総合開発、夕張シューパロ、沙流川総合開発、サンル、留萌〈東北地整〉津軽胆沢、森吉山、成瀬、長井〈関東地整〉湯西川、霞ヶ浦導水、八ッ場〈北陸地整〉利賀〈中部地整〉新丸山、設楽〈近畿地整〉足羽川、大戸川、大滝、紀の川大堰〈中国地整〉殿、尾原、志津見〈四国地整〉中筋川総合開発、山鳥坂〈九州地整〉大分川、嘉瀬川、川辺川、立野、本明川沖縄総合事務局〉沖縄東部河川総合開発、沖縄北西部河川総合開発〈水資源機構〉思川開発、川上、丹生、小石原川、大山、木曽川水系連絡導水路、滝沢
 【実施計画調査段階】〈東北地整〉鳴瀬川総合開発、鳥海〈関東地整〉荒川上流ダム再開発、吾妻川上流総合開発、利根川上流ダム群再編〈中部地整〉上矢作〈九州地整〉筑後川水系ダム群連携、城原川、七滝
(2009年10月9日12時59分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091009-OYT1T00533.htm

 上記のうち、岩手県奥州市に建設中の「胆沢ダム」と秋田県北秋田市の「森吉山ダム」は、地理的に近いこともあって取材したことがあるが、いずれもいまの段階にいたっては中止どころか凍結さえあり得ぬと見ていた。とくに胆沢ダムは、かの民主党小沢幹事長のお膝元であり、例の西松建設献金問題の主舞台であって、実はいまテキストを書きかけていたのだけれど、過去の建設の経緯からして、見直しの対象からはまず除外されるものと思い込んでいたので、このほどの「凍結」リスト入りはかなり意外というか予想外である。

 とはいえ、上記報道はあくまで「一時凍結」。これら48ダムのうち、一定数は解凍されるだろう。胆沢ダムも森吉山ダムも、ほどなく事業継続の判断が下されるはずだ。なにせ本体工事真っ只中。すでに後戻りできないところまで工事は進んでいる。もはや中止は非現実的であり、仮に中止となれば八ッ場ダム問題どころではない、まさに国家がひっくり返る大騒ぎになろうから。

 それにしても今回の凍結決定は思いのほか早かった。八ッ場ダムや川辺川ダムの中止問題さえ、まだ緒についたばかりなのだから。国交大臣の本気度がうかがえる?

追記

 東北のブロック紙河北新報』ではもうちょっと詳しいので、そちらも全文貼り付けます。

ダム48事業一時凍結 国交相表明、東北は7件

 前原誠司国土交通相は9日、国と独立行政法人水資源機構が進める全国56ダム事業のうち48事業について、2009年度内は新たな工事手続きに入らず、事業を一時凍結することを表明した。このうち成瀬ダム(秋田県)など本体工事が未着工の30ダム事業の扱いが焦点となりそうだ。

 前原氏が表明した143ダム事業見直しの一環。道府県が事業主体で国が補助する87のダム事業は「各知事の判断を尊重する」とした。個別事業の扱いについては、来年度の政府予算案提出までに基本方針を示すとしている。

 凍結48事業のうち、本体工事が未着工のダムなどを含むのは既に前原氏が中止を表明した八ツ場ダム(群馬県)と川辺川ダム(熊本県)を含む30事業。東北では成瀬ダムのほか鳴瀬川総合開発(宮城県)と鳥海ダム(秋田県)が本体未着工。前原氏は事業を継続するかどうかを判断する基準の一つに本体工事の着工の有無を挙げており、予算案編成の過程での前原氏の判断や関係自治体との調整が注目される。

 ダム建設の手続きは(1)調査・地元説明(2)事業用地の買収(3)付け替え道路などの生活再建工事(4)本体建設のために行う川の流路切り替え工事(5)本体工事―の5段階に分かれる。前原氏は9日の会見で「09年度内に新たな段階には入らない」と述べ、新規の契約に入らない考えを示した。
 年度内にこれらの新規契約を予定し影響が出るのは、サンルダムや岐阜県木曽川水系連絡導水路事業など6件にとどまるという。
 一方、凍結する事業についても、現在行われている工事や、八ツ場、川辺川両ダムなどで行っている付け替え道路建設などの生活再建工事は継続すると明言した。

 前原氏は9月の就任直後、民主党マニフェスト政権公約)通り、八ツ場と川辺川の両ダムの中止を明言。これを「公共事業の在り方を見直す入り口」と位置付け、両ダムを含む建設中または計画段階にある直轄ダムや導水路、補助ダムなどすべてを見直し対象にすると表明していた。

東北の凍結対象ダム
 青森県津軽ダム▽岩手県胆沢ダム宮城県=※鳴瀬川総合開発▽秋田県=森吉山ダム、※成瀬ダム、※鳥海ダム▽山形県=長井ダム(※は本体工事未着工)

◎整備求める意見書可決 山形県議会

 山形県議会9月定例会は9日、本会議を開き、国に対しダム建設事業の推進を求める意見書を賛成多数で可決した。

 意見書は、前原誠司国土交通相が一時凍結を表明した長井ダム(長井市)をはじめ、留山川生活貯水池(天童市)、最上小国川ダム(最上町)の整備促進を求めた。国が示す公共事業費削減の方針に対し「住民の安全・安心確保のため、地方の実情と工事の必要性を十分認識してほしい」と訴えている。

 本会議では、ほかに経済対策の継続的な実施や農業基盤整備、日本海沿岸東北自動車道などの道路整備推進を求める意見書も可決した。

◎撤退はありえない/今後どうなるのか/より詳細な説明を/とんでもないこと

 前原誠司国土交通相が9日公表した一時凍結する国などのダム事業に、東北から7事業がリストアップされた。寝耳に水の東北の自治体などからは「うちは大丈夫だろう」と冷静な受け止めがある一方、「とんでもない」と怒りや戸惑いの声も上がった。

 ◆青 森
 津軽ダム(西目屋村)は県内最大の重力式コンクリートダムで、利水と発電を目的として建設中。2008年11月に本体着工し、16年完成を目指している。

 県県土整備部の東和生次長は「津軽ダムが凍結とは聞いていない。東北地方整備局にも確認したが、津軽ダムは本体工事に着手しているので(国交相の表明の)対象ではないということだった」としている。

 ◆岩 手
 胆沢ダム奥州市)は1988年に着工された。高さ132メートル、堤長723メートルで、岩石や土砂を積み上げるロックフィルダムとしては国内最大級。総事業費は2440億円に上る。

 2013年度の完成を目指し本体工事が進んでおり、工事の進ちょく率は事業費ベースで08年度末66%。09年度末には75%を見込み、残りは管理棟建設など。ダムの堤体工事は9月末現在で99%が完了している。今後大きな契約は予定しておらず「詰めの工事が残っているだけ」(国交省関係者)という。

 達増拓也知事は「前原大臣が示した(凍結の)方針には胆沢ダムは含まれていないと理解している。事業継続に問題はない」と述べた。工事関係者も「完成間近のダムで撤退はありえない」と冷静に受け止めた。

 ◆宮 城
 「鳴瀬川総合開発」は田川ダム(加美町)の整備事業で、09年度の予算は1億5500万円。設計段階で、地質調査や水の流量観測をしていた。

 県土木部によると、国のダムも県営ダムも、国と県が策定する河川整備計画に位置付けられる。伊藤直司部長は「河川整備計画では総合的に治水を考えている。県民の意見を聞きながら計画を策定した以上、(事業の凍結で)自治体の意見を十分尊重してもらいたい」と強調する。

 県が支出した胆沢ダムの直轄事業負担金への関心も強い。北上川下流の宮城も「治水の受益者」として負担金を支出してきたためだ。県幹部は「ここでストップしたら、今後どうなるのか」と困惑する。

 ◆秋 田
 森吉山(北秋田市)成瀬(東成瀬村)の両ダムは建設がスタートしており、鳥海ダム(由利本荘市)は地質や環境調査をしている。

 森吉山は現時点の進ちょく率95%。11年度完成予定で、ダムの水を下流に送る排水管などの工事を残すだけ。成瀬は08年度末の進ちょく率14%。川の流れを変える本体関連工事が始まり、11年度に本体工事に入る予定。

 国出先や地元自治体の関係者は戸惑いや不安の声を漏らす。森吉山の地元、北秋田市建設課は「凍結はないと思うが心配。完成が遅れたら治水対策や水道事業に影響が出る」とし、成瀬を担当する湯沢河川国道事務所の担当者は「上司から連絡も指示もなく、どうしたらいいのか」と話す。

 佐竹敬久知事は「より詳細な説明を速やかに行うのが筋道だ」とコメントした。

 一方、市民団体「成瀬ダムをストップさせる会」の奥州光吉代表は一時凍結を歓迎し「行政や市民団体などがダムの代替案や中山間地域の復興について議論を深める場が必要だ」と指摘している。

 ◆山 形
 長井ダム(長井市)は1977年に建設の予備調査に着手し、2000年に本体着工した。今年11月から試験たん水が始まる。工事は事業費ベースで92%が執行済み(本年度末見込み)。県河川砂防課によると、来年度完成予定で、本年度中に新たな契約が必要な工事はないという。

 吉村美栄子知事は「ダムはほとんど完成している。勘弁してほしい。とんでもないことだ」と驚きと憤りを隠さない。課の担当者は「凍結の影響は少ないが、完成間近のダムまで対象になるとは思わなかった」と話す。
http://www.kahoku.co.jp/news/2009/10/20091010t71015.htm